「ウブドのマーケット」


「18年ぶりに訪れたクプクプバロン」



 1月にバリ島に行ってきた。前回行ったのは実に18年前。なぜかそれから今までバリは海外旅行の候補にあがらなかった。その理由は、ちょうど同じ時期に熱帯という括りでは共通するオーストラリアのポートダグラスやシンガポールにはまり始めたからだ。実は飛行時間に関してはポートダグラスへの起点となるケアンズまでとバリのデンパサールまでは大差がなく、時差1時間も同じ。シンガポールはこれより1時間ほど飛行時間が短く、時差は同じ。海やビーチを楽しむなら圧倒的に美しいポートダグラスが、優雅なホテルライフや美食巡りならシンガポールがいいと思っていた。
 実際、日本では当時、リゾート地としてのバリへの認識はそれほどでもなく、僕も行く前の情報源として今みたいな豪華なリゾート特集のムックではなく、地球の歩き方やロンリープラネットに頼っていた。今ではバリの高級リゾートの代名詞のアマンも、ウブドにできて1年もたってなく、インターネットもない時代であったことも相まって日本ではその存在はほとんど知られてなかった。
 18年前のバリはクラフトの社長夫婦と僕たち夫婦で行った。使ったのはHISのパッケージツアーで、ホテルはヌサ・ドゥアのバリソル。バリソルは今のメリア・バリだが、フロントに交渉しパッケージで付いていたスタンダードルームを追加料金でメゾネットのジュニアスイートにアップグレードしてもらった。当時、僕は海外旅行ではパッケージは一番安い部屋にして、この手でアップグレードを必ず交渉していた。成功率は100%。どのホテルも一泊数千円を投じるだけで部屋は劇的にアップした。ここ十数年、パッケージツアーは利用していないが今もこの手は使えるのだろうか。
 また、この時は一泊だけウブドのクプクプバロンに泊まった。パッケージの部屋はそのままにして、国内旅行みたいな身軽な荷物で行くのだが、当時はこの手もよく使った。例えば、安宿に泊まっていたパリではロアールのジャンバルデという星付きのオーベルジュに一泊し、同じくメルボルンでは郊外にあるツウフェースというオーベルジュに一泊するといった具合だ。パッケージの安宿代はエアーチケットにおまけみたいについてるものだから、一泊ぐらい無駄にしても惜しくはない。
 今回、18年ぶりにウブドに行ってその観光地化に驚いた。当時はウブドはまだひっそりとした山間の村だった。今もあるクプクプバロンは今流行りの隠れ家リゾートのはしりで、当然その存在は日本では知るよしもなく、オーストラリアで入手したカタログを頼りに予約した。
 海辺の景色のつまらなさに拍子抜けし、絵のように美しいウブドの渓谷やライステラスに感激し、街路灯がない真っ暗な夜道をろくにライトもつけないで突っ走るタクシードライバーの視力に驚嘆したのが当時のバリの感想だ。外食に関してはホテルの食事は思ったよりよかったが、さほどのレベルとは思えず、一方、町場で食べるローカルフードはとても美味しかった。











 で、今回のバリ行き。正月空けにどこかに行こうということになり、バリに白羽の矢があたった。なぜバリか?その理由は、ずばり滞在費が安いから。
 毎年行くオーストラリア行きで海外旅行での現地滞在費が年々上がっていくのはひしひしと感じていたが、今回、いくつかの国のそれを試算して愕然とした。高い!いままで、ホテルに関しては聖域みたいにお得だと思っていたシンガポールもすごく高くなっている。フォーシーズンズのスイートに日本のホテルのツイン並みの値段で泊まったのは今では夢のまた夢だ。外食費も全般的に高くなっている。
 日本では高くて手が出しにくかった高級ホテルやレストランは外国で安く楽しみましょう、といったいままでの構図は明らかに崩れている。ちなみに今回は最初から候補に上がっていないけど、ユーロ高のせいもありヨーロッパなんかはとんでもないことになっているらしい。
 なぜこんなことになったのか。日本の一人勝ちの時代が終わって、逆に他の国の景気がよくなったからだと思う。昔は世界一高いといわれていた日本の外食は、今や世界的にみてもお得な値段になっていると思って間違いない。実際、外人の観光客も増加しており、僕のホームグラウンドの六本木は外人だらけ、この間行ったディズニーランドでは中国語と韓国語が飛び交っていた。
 さて、バリ島。18年前のパッケージツアーはガルーダだった。当時は今とは逆でバリへは直行せず、まずジャカルタでいったん飛行機を降ろされた後デンパサールに向かって乗り直した。これは、インドネシアの玄関がバリ島と思われては困るとの政策的な理由によるものだと聞いたことがあるが、機体がおんぼろなことも相まってずいぶんと遠く感じた。
 今回はいつも使っているJALの悟空でエアーチケットを入手。ここで思い知るのは、気がついたらいつのまにか導入されていた燃油付加税というやつ。これがさきほどの現地の滞在費の高騰と相まって、お手軽海外旅行を遠いものにしている。何たって、5万円ほどの航空券に2万円以上の料金が加算されるのだからたまったものじゃない。車を買うときの諸費用のようなものだが、それより率は高い。久しぶりに海外旅行を検討している読者は例えば「バリ往復4万」と広告に書いてあっても、実際に支払う費用は6万円を越えることに注意しなくてはならない。ちなみに、マイレージで無料航空券を入手しても燃油付加税は別途払わなければならないのでちっとも無料じゃない。この間、夏のケアンズ行きの無料航空券を入手したが、4人で20万円近くの税を請求され愕然とした。
 エアーの次は宿。ネットで調べてみるとあるわあるわ、続々と出てくる。18年前に比べて各段に宿の数が増えている。大型ホテルも新ブランドが登場しているが、目立つのはさきほどのクプクプバロンのような小振りな隠れ家リゾートや、戸建ての部屋を中心としたヴイラタイプのリゾートの台頭。
 そして、値段が安い。もともと現地の物価が安いこともあるが、コレラ、テロ、インフルエンザのマイナスイメージ三重奏+ホテル間の過当競争の影響かどうか知らないが、今どきにしてはどこもとてもお得なお値段。一部屋1万円程度でもそれなりのホテルに泊まれるし、一流ブランドのアメリカ系ホテルも日本で泊まるより確実に安く泊まることができる。久々に昔の海外旅行にもどったような気分になってしまう。
 ところで、わが家は子供は7歳と12歳。ちなみに、海外ホテルのオンライン予約で人数を正直に大人2+子供2で入力して空室照会を行うと、ほとんど場合「空き室無し」の回答がでてくる。これは、そのホテルが満室というわけでなく、トリプルとかフォースといった部屋をそのホテルが用意していないだけにすぎない。そういった場合はとりあえず大人2名で広めの部屋を予約しておいて、現地でエキストラベッドを頼むとか添い寝させる。でも、子供の一人が小学6年生になり、前みたいにツインの部屋に4人泊まることが難しくなってきた。といって、ツイン2部屋は費用的にしんどいし、1+1は所詮2にしかならないのでつまらない。
 そんなわけで、わが家では、毎年行くポートダグラスでは寝室が複数ある貸しアパートや貸家を借りている。高級イコール広い場所という日本的な感覚では豪勢に思われるかも知れないが、実はホテルのツインより安い。2バスルーム、大理石のフルキッチンの100平米を優に越える2LDKのアパートがシェラトンミラージュのツインより安く借りることができる。
 さて、バリ島。いくら安くても2部屋分だとそれなりに費用は嵩む。そこで、目を付けたのは寝室が複数あるヴイラ。事情を知らないと、ヴイラといえば即座にアマンやフォーシーズンズ、それにリッツカールトンといった高級リゾートが思い浮かび、高いじゃないかということになるが、今回調べてみてわかったのは決してそうではないということ。お手ごろな値段で泊まれるところが結構ある。
 さきほどの高級リゾートはロビーやレストランといったパブリックスペースに力を入れて勢を尽くし、沢山の従業員をかかえている。ロケーションも海際の一等地で、広大な敷地を占有している。これらに要する総コストを客室の占有面積で割れば、普通のツインの何倍どころか何十倍の面積を要するヴィラの料金が高いのは当然で、CPを考えれば逆に割安でさえある。では、パブリックスペースは最小限にし、レストランも省き、立地も海際などの一等地でなく、ヴィラ部分に特化したらどうなるか。
 今回泊まった ヴィラにまさにその答えがある。 (pooh)
 (以下、次号)