初恋 | ことばのチカラLite

初恋

 ユジンとの出会いは突然訪れた。テニスコートの前がボクの下足入れだ。すれ違うテニス部員たちの中にひときわ目立つ女性がいる。背筋をピンと伸ばした身長は、165cmはあるだろう。それまで他の部員と談笑していたせいか、すれ違うボクと一瞬目が合ったときその驚くばかりの笑顔がこちらにもこぼれてきた。あまりにも衝撃的で最後まで受け取ることができなかった。ボクの高校生活はこうして幕を開けた。

 柔道部に入ったばかりのボクは五分刈りで56Kgのちんちくりんである。女の子と話すとすぐ顔が紅潮してしまい、目を合わせることすらできない。しかしそんなボクに容赦なく再会は突然訪れた。
 あれから数日経ち、出会ったことも忘れていたが、ある朝通学で使っているバスにユジンが乗り込んできた。同じバスを使っていることがわかっただけで感激し、その日一日がバラ色だった。もう虜である。
 毎朝ユジンが乗るはずのバスに乗るだけでワクワクし、ユジンの乗るはずの停留所が近づくたびにドキドキして、ユジンが乗り込むのをみるとバクバクした。

 先日ニューズウィークが「恋する脳」の研究を特集していた。恋をしている人の脳は、そうでない人の脳と著しく状態が異なるらしい。 四六時中相手の一挙手一投足が気になり、その反応に一喜一憂する仕組みになっている。まさに恋は盲目とはこのことだ。

 ボクの恋は果てしなく内にこもる方向で盲目だった。恋愛小説を読み、ユジンを当てはめて勝手にうまくいくシナリオを妄想し、柔道に打ち込んでいるだけで事態が進展するのでは?という根拠のない希望を抱き続けていた。なんら具体的なアクションを取らなかったためユジンにとってのボクはサンヒョクどころかヨングクにすらなっていなかったのだ。
 「ちんちくりんのボク」に今の私のような強力な助っ人がコーチとしてついていたら、かなり早期の段階でせめて登場人物には、なれていただろう。