#71 『チェリーブラッサムのあたまについての考察』 | RELATION-CONNECTION マドラス的音楽つながりブログ ほぼ松田聖子

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どれくらいぶりか忘れたので書きませんが、
お久しぶりです。
それとタイトルを入力していて気づきましたが、「#71」つまり71号なんですね。(番号を振ってない記事も少しありますが)
よく続いてるものです。

前置きはともかく、まずはチェリーブラッサムに関する1本の動画からご覧くださいませ。
これを聴いていただかないと話しが始まらないので、再生できるか不安です。
音声のみとなりますので、お耳を拝借。
 
 
チェリーブラッサムイントロ
 
 「チェリーブラッサム」のイントロが2本、お聴ききになれましたでしょうか?
 
1本目のあたまが聞こえた時点で「あること」に気づいたという方は、私に言われても嬉しくもなんともないでしょうけれども「あなたはビジュアルだけでなく、音にも敏感。そして音楽的にも松田聖子をこよなく愛する、それも相当のファンである」と言えましょう。
 
説明など要らないと思いますが、1本目と2本目の違いは曲のあたまにドラムの2音が「あるか」「ないか」です。
原曲のイントロは「タン、タン」という2音のドラムから始まりますが、1本目はその部分をカットしています。
なぜわざわざそんなことをしたのかと申しますと、普段みなさんがどのくらいチェリーブラッサムのイントロを意識して聴いているのかを試してみたかったのです。
案外、気づかない方が多かったのではないかと予想しているのですが、どうでしょう。

中にはチェリーブラッサムのような曲の場合、あたまのドラムソロはイントロパートとしてカウントしていない方がいるかもしれませんが、私の場合、ドラムソロからがイントロなのです。
ちなみに先ほど「タン、タン」と省略して書きましたが、私の耳には「ドダッド、ダッド」とか「ドドダッド、ダッド」あるいは「ダッド、ダッド」に聴こえたりもするのですが、話が長くなりますので詳細については別の機会に。
 
さて今回は、いままで注目されることのなかった、チェリーブラッサムのイントロのあたまについての考察です。
 
イントロは作曲者が付ける場合もあると思いますが、チェリーブラッサムのイントロをつけたのは財津和夫ではない、と勝手に想像しております。
以前の記事に書きましたが、編曲する前のチェリーブラッサムの元はフォークっぽかったのではないかと思っております。
例えば出だしのパート。Amからベースが段々に降りていく感じ。あれはフォークっぽくないですよね?
ましてや締め切り間際に御蔵入りだったものを出してきたと言われる作品ですから、財津和夫にイントロをつけるまでの余裕などなかったのではないかと思うのです。
とはいえ、財津和夫がデモテープをラジカセで録っていたかどうかはともかく、もしそうだとして、前奏がまったくなしで
♪ラララ〜ララ〜(なにも〜かも〜)
ラララ〜ララ〜(めざめ〜てく〜)
の歌メロを吹き込んだというのも何だか不自然な気もいたします。
おそらくピアノとかギターを弾きながら
♪タンタンタ〜ンタタ〜ン(しろい〜なみ〜)
タンタンタ〜ンタタ〜ン(おどお〜ってる〜)
ジャ〜ン、の伴奏からの〜
♪ラララ〜ララ〜(なにも〜かも〜)
と入る。
たぶん、これくらいのものはあったのではないでしょうか。
歌詞はないのでラララですね。
いや、もしかしたら、歌詞は変える前提でチューリップ版の歌詞を仮で付けていた。なんて話しもあったら面白いんですがね。
 
さておき、あのロック調のかっこいいイントロを作ったのが財津和夫じゃないとすれば、編曲した大村雅朗しかいません。
となりますと、ギターアレンジだけでなく、ドラムのアレンジも、いわゆる基本的なドラムパターンなどは大村雅朗が指定したはすです。
ついでに言うと「あたまの2音」もきっと大村雅朗のアイデアでしょう。
大村雅朗がレコーディングの際、ドラムの 菊地丈夫にアレンジ全体のイメージを伝え、何テイクか叩いてもらったうちの、このテイクが採用されたのではないでしょうか。

それにしても、大村雅朗が関わった仕事ですから、この「あたまのドラムの2音」、(仮に『チェリーのあたま』と呼ぶことにしましょう」を意味なく使ったはずがなく、何かしら役割を持たせたに違いありません。
 
というわけで、マドラス的勝手な仮説を述べます。
 
まずは「印象付け」としての役目
 
歌い出しの♪何もかも〜の「な、に」の2音とドラムの「タン、タン」の音が重なっていますよね。
これ、まさしく曲のあたまの「タン、タン」によく似ています。というか一緒ですね。

歌詞カードを目で追っていくと、他にも
♪あなたとの~の「あ、な」や、
♪描いてゆく二人で~の後の♪何もかも~の「な、に」、それから、
♪激しい風 吹かれて~の後の♪何もかも~の「な、に」でも使われていることに気づきます。
これだけ繰り返して使っているとなると、なんだかこだわりを感じますよね。
ちなみに「タン、タン」の他にも「シャン、シャン」が使われているレアな部分もあるのですが、こちらは別の機会に。
 
もしかしたら「タン、タン」の2音は単なるドラムのフィル(おかず)ではなくて、大村雅朗によって意図的に作られた、とても意味のあるドラムリフなのかもしれません。
このリフをまずイントロのあたまに持ってくることで、リスナーは後に何度も登場するリフと同じであることにハタと気づきます。そこで、「おお~このタン、タンとあのタン、タンは同じだな」と認識し、強く印象に残るという算段なのです。
 
「きっかけ作り」としての役目
 
前作「風は秋色」は短いドラムのフィルから始まる作品でした。
どんなフィルかと言いますと四分音符を1拍として2拍分の長さのタムです。
音にすると「トン、トドッド」の5音。3拍目にクラッシュシンバルが入るのと同時にシンバルロールが始まります。そこから徐々にクレッシェンドさせていく。もう、秀逸の一言です。

別なフィルではいけないのでしょうか?
例えばトン、トドッドではなく、
トン、トンでは?
ドコドコタンでは?
ん〜なんだかイマサンくらいノーグッドです。
トン、トドッドには、一瞬気持ちが停滞したのち、再び走り出す感じが表現されてますから、これには敵わないのですよ。
 
そしてトン、トドッド・・・と来たら、次に絶対クラッシュシンバルが来る流れですよね。クラッシュへのきっかけフィルとしては、シンプルかつ流麗。きっかけフィルはむしろシンプルでなければならないのですからちょうどいいのです。(自論)

 
「チェリーブラッサム」の次にリリースされた「夏の扉」もまたドラムから始まる作品です。
ドラムの「タン」の音と同時にシンセのグリッサンドが聴こえますのでドラム単独ではありませんが、こちらはナント1音。
とても短く、シンプルなフィルのため存在すら忘れられているかもしれませんね。

しかし、耳をそばだてて聴くとあたまの「タン!」は女の子にパチンと平手打ちをくらったような目の覚めるフィルです(ストーリーとは関係ありませんが)。これはきっとシンバルの効果でしょう。
スネアドラムと同時にシンバルを叩くことで若さが弾けるフレッシュ感と瑞々しさを演出していると思われます。
すごいですよ。たった1音のフィルから始まり、キラキラしたシンセサイザー。バスドラムの4つ打ち発動のきっかけを作るという、重要な役目を果たしているのですから
このバスドラムの4つ打ちは、2人の鼓動を表現しているとも取れますね。胸のドキドキが聴き手にも伝わってくるようです。
 
ちなみに、この夏の扉のあたま。歌番組ではレコードと演奏が少し違っていて、ベースのグリッサンド、いわゆるブーン音から始まることが多いようです。
 
「チェリーブラッサム」はどうでしょう。
「タン、タン」の2音をきっかけに演奏が始まります。フィルの長さは「風は秋色」と同じ2拍分。
注目すべきなのは「タン、タン」の2音を聴いただけで、このあとハードな演奏が待っていることを思わず予感してしまうという点です。
それはなぜでしょう。まず、あたまのスネアドラムの音が太めにチューニングされているということが大きいと思います。
スネアはおそらく今までより口径を大きくしたり、深いものに変えられているのでしょう。これにより、低音が効いているのだと思います。
もちろん、スネアだけでなくタムやバスドラのチューニングも変えているはずです。
加えて、
♪なにもかも〜の歌い出しの前、Fのコードをキープしている箇所から、
♪受けとめてくれるでしょう〜辺りまで、ハイハットを半開きというか、ほんの少しオープンにしているように聞こえますね。こうすることによって更にロック度が増しているのです。

スネアやバスドラムの音の違いは今までのシングルと聴き比べれば一目瞭然です。
分かりやすく言うと「パス、パス」と「バスン、バスン」くらい違います。
太めにチューニングした理由はもちろん大村雅朗が「チェリーブラッサム」のアレンジをロック調で行こうと決めたからであり、エレキギターの音色を歪ませたのに合わせて、ドラムも太めの音にしたのだと推測できます。
これが細めの音であったなら、聴いていて物足りなさを感じるはずです。
すなわち、これから始るロックサウンドのオープニングにふさわしい、太めのスネアの音がどうしても必要だと考えたのではないでしょうか。
 
もうひとつ。あたまの「タン、タン」は分かりやすくカウントしますと、「1、2、3、4」の「3、4」に位置し、四分音符がふたつ。実はこれが短いながらも躍動感と加速感を出しているのです。
「タン、タン、タン、タン」と4つでは気の短い人には長すぎて待ちきれませんし、テレビサイズの場合は不都合もあるでしょう。雑な言い方をすれば2つがちょうどいいのです。

加速感については以前、「青い珊瑚礁の加速感」の回でも触れました。簡単に言えば「畳み掛け効果」です。
実は松田聖子はシングルをリリースするごとにテンポを上げています。
裸足の季節 約127BPM
青い珊瑚礁 約137BPM
風は秋色 約140BPM
チェリーブラッサム 約145BPM
夏の扉 約155BPM
 
チェリーブラッサムはリリースされた時点では一番早いテンポのシングルなんですね。
 
この記事を書くにあたり、ひとつの実験を行いました。
チェリーのあたまのドラムソロを風は秋色のあたまのドラムソロに変えたらどうなるのか?
これが意外にも合ったので驚いたのですが、でもやはり何か足りないと感じました。
それは、勢いだと思うのです。
風は秋色のあたまは、「トン、トドッド」というフィルですが、一瞬停滞する印象があります。
「大村雅朗はますます早くなるテンポに合う、最高のロックイントロを模索しました。
たった2音のドラムを聴いただけでロックを感じられる音。
そしてたどり着いたのが「タン、タン」だったのです。
 だからチェリーのあたまが無かったらチェリーじゃないのです。
 
余談ですが、ドラム始まりといえば「青い珊瑚礁」のB 面曲「TRUE LOVE そっとくちづけて」。
ただ8ビートを刻むだけのシンプルなドラムソロ。
しかしながら、聖子作品の中でも三本の指に入る素敵なイントロだと私は思っています。
程よくリバーブのかかったスネアドラム。メロディアスなリードギター・・・う〜ん、この話しは長くなるので、また別の機会に書くことにします。
 
横道にそれてしまいましたが、チェリーのあたまの2音のドラム。大村雅朗はこのフレーズをひどく気に入っていたかもしれないという話しをひとつ。
なぜかというと、チェリーブラッサムの半年後にリリースされた「白いパラソル」でも同じフレーズを使っているのです。
原曲の2分17秒あたりを聴くと確認することができますので聴いてみてください。
 
これだけなら単なる偶然とも言えますが、また使う日がやって来ます。
その日とは、1986年1月22日。
チェリーブラッサムのリリースから実に5年後のことです。
曲は渡辺美里の「My Revolution」。
その中にチェリーブラッサムと同じ「例の」ドラムの2音が登場するのです。
 
♪走り出せる〜
のあと・・・
♪ッチャラッチャ〜チャチャッチャ〜タン、タン!

文字では伝わらないでしょうけど。
そうです。タン、タンです。

こちらは原曲の1分50秒あたりを聴くとその音を確認することができますので聴いてみてください。

 
どうですか?
そっくりではないですか?
テンポは違いますけどチェリーのあたまと同じですよね?あたまには使ってませんが。
でもこの2音、ここに絶対必要なんでしょうか。
無くても成立するように思うんですが。
どう考えても意図的ですよね。 
 
アレンジャーはもちろん大村雅朗です。
大村雅朗は余程気に入っていて、いつかまた使いたいと考えていたのかもしれません。
 
その辺のことは、この本に書かれて・・・
 
当時まだ知名度の低かった小室哲哉でしたが、その彼が作曲したMy Revolutionが世間に受け入れられたのは、もちろん渡辺美里の歌唱力や様々な理由がありますが、大村雅朗によっていつの間にか刷り込まれていたチェリーのあたまを、久しぶりに耳にしたリスナーが「あいや〜懐かしい!このタン、タンはチェリーのあたまだよね!」「おお!なんかMy Revolusionっていいかも!」「みさっちゃん、かわいい!」という具合にアイドルソングを卒業したヤングな世代に大いに受け入れられることになったのです。
つまり、チェリーのあたまがMy Revolutionのヒットに少なからず影響を及ぼした・・・・・・かもしれないのです。
 
そうかもしれないなぁと想像しながら聴くのもなかなかオツなものです。