小さなお侍さんの登頂録

小さなお侍さんの登頂録

歴史やオペラなど関心のある分野について、まったりと語っています。登頂録と銘打ってはいますが、登山とは無関係です。一種の比喩的表現として使っております。

Amebaでブログを始めよう!

山形県白鷹町は、荒砥地区と鮎貝地区から構成された風光明媚な土地柄で、置賜盆地の北端に位置しています。今年、平成30年の桜の開花は全国的にも早まっており、この地でも例年に比べて一週間ほど早く見頃の時期を迎えました。夏と見紛うほどの陽気のなか、古典桜が点在する鮎貝地区を車でドライブ。桜を求めて楽しいひとときを過ごしました。

 

 

(1)釜ノ越の桜と二世木

釜ノ越の古典桜は、樹齢八百年を超える山形県内有数の巨木でしたが、徐々に樹勢が衰えて来ていたとのことで、昨年はとうとう花を咲かせることなくシーズンを終えました。今年もご覧の通り、青空のもとで静かに佇み、周りの若い木々を見守るかのように沈黙を守ったままです。

 

残雪が残る朝日連峰を背景に、二世木や若い桜達がのどかな風景を美しく形作っていました。この釜ノ越農村公園では、屋外イベントや屋台も軒を連ね、町内の桜の名所のなかでは一番賑わいを見せていました。満開を期待しての桜ドライブでしたが、舞い散る桜には満開の桜には無い風情があるのも確か。帰り際に観光バスを数台見かけました。

 

 

(2)山口奨学桜

旧山口尋常小学校の跡地に根を張る樹齢百年弱の銘木。側近くで仰ぎ見ると、四方の青空に届かんばかりの豪勢な枝張り。堂々とした姿の大木です。地区住民の方々でしょうか、訪れた観光客に桜湯を配ってもてなされていました。嬉しい心配りですね。地元の方のからお話を伺うと、昨日4月21日(土)に一気に満開を迎え、そして一日足らずで早くも散り始めたとのこと。昨日はこの辺りでも30℃近い気温に達したことと強めの風が吹いていたことから、今年の桜の見頃は短期間となったようです。

 

(3)十二の桜

「十二の桜」とは、かつてこの地にあった十二薬師堂に由来しています。現在人々の目を引いている大木は三代目とのことですが、推定樹齢四百年を誇る古株からその命脈を受け継いでいるそうです。今回訪れた桜群の中では最も花びらが残っていましたが、この日も時折強い風が吹いていました。ここ置賜地方でも桜の季節は終わりを迎え、山々に緑が蘇る新緑の季節が訪れることでしょう。

 

 1.はじめに(通信制での研究を選択した経緯)
首都圏や関西圏では、社会人がフルタイムで働きながら大学院に通う機会が一定程度整備されています。昼夜開講制、週末開講制、夜間制など社会人が通いやすい制度を採用している大学院が増えており、修士課程(博士前期課程)や専門職大学院で学べる分野も多様化しています。例えば、私の母校である法政大学にも大学院経営学研究科にビジネススクール(夜間コース、通称HBS)が導入されており、修士課程だけでなく博士後期課程でも研究活動をする機会が与えられています。学びの質が保証されている上に学費も低廉であり、もし私が通学可能圏内に在住していれば迷わずHBSの門を叩いていたことでしょう。
 

ところが私の住んでいる地域には、全ての学問分野において、社会人が休職や退職せずに通学できる大学院はいまだに存在しません。社会人のリカレント教育という言葉が方々から聞かれるようになりましたが、日本ではまだまだ他の先進諸国に比して環境が整っているとは言えないのが現状です。夜間制大学院も含めて通学課程で研究する場所がないとすれば、地方の社会人が職場に勤務する傍ら、学部を超える高度な研究・学習活動を実践するとなれば、残された選択肢は通信制を設置している大学院以外にありません。今後のキャリアアップを視野に入れて、修士論文の審査に合格し、修士の学位を取得すること。これが通信制大学院進学の最大の動機でしたので、自分の職能を高めるのに有用な専攻に絞り、その中から研究内容、知名度、立地、学費の4点を総合的に勘案して受験校を選択しました。
 

私立大学通信教育協会によれば、同協会に加盟していない大学も含めて27の大学院が通信制の修士課程(博士前期課程)を設置しているとのことです。最初に候補に挙がった大学院は、国立大学で唯一現存するオンライン大学院で、実質的なシステムは通信制でありながら「通学課程」として設置されている「熊本大学大学院社会文化学研究科教授システム学専攻」です。熊本大学は旧制熊本医大や旧制五高の流れを汲む名門国立大学だけあって、遠隔地教育であっても十分に研究と学びの質が保証されていると感じられました。eラーニングの専門家を養成する専攻とのことで、教授システム学という聞きなれない名称でしたが、経営戦略や人的資源管理論に関心のある自分にとってもプラスになる学際的学問領域であると感じました。ただ、広義の通信教育での学習スタイルとは異なり、リアルタイムなオンライン教育が徹底されているようでしたので、時間的な制約が生じることが予想されます。加えて熊本まで通って対面での指導を受けるなど一定程度は通学する必要があるとのことで断念しました(東京在住ならば何とかなったかもしれませんが)。
 

そこで原点に立ち帰り、やはり自分の現在の職業に直結する社会福祉学分野の大学院にすべきであると考え、東北福祉大学通信制大学院総合福祉学研究科社会福祉学専攻、日本福祉大学大学院社会福祉学研究科社会福祉学専攻(通信教育)、放送大学大学院生活健康科学プログラムの3校に絞って比較検討した結果、東北福祉大学通信制大学院を受験することに決めました。放送大学大学院の場合は得られる学位が「修士(学術)」であるため、福祉系大学院で授与される「修士(社会福祉学)」に比べると専門性の点でどうしても弱い印象があり、最初に選択肢から外れました。そして、残った二校のうち、学費が安いことに加えて、私の住んでいる地方では実績のある点を重視した結果、東北福祉大学大学院への進学を決意しました。

2.大学院受験
受験校が決まったので仙台駅近くにある東北福祉大学東口キャンパスでの説明会に参加し、出願書類の作成に取り掛かりました。志願理由書(2,000字程度)のほか、最も重要な研究計画書(4,000字程度)は何度も遂行し、来たる受験に備えました。学部とは異なり大学院の場合は、通信教育課程でも入学試験が実施されることが通例ですので、全入ではありません。国内最大の通信制大学院である放送大学大学院では競争倍率が10倍を超える難関の専攻もあるぐらいですし、東北福祉大通信制大学院でも福祉心理学専攻の倍率は高いです。私の受験する社会福祉専攻でも毎年不合格者が出ています。受験日は第Ⅱ期ということで2月下旬に行われました。試験科目は、午前中に社会福祉学に関する論述(筆記)試験があり、その後、昼食休憩を挟んで午後から口述試験が行われます。

論述試験は四問のうち二問を選択するもので、「~について論述せよ。」という内容です。一問ごとにA3用紙が配られますが、書き足りない場合は裏面まで記述することになります。口述試験会場は二部屋に分かれており、1人ずつ入室。2名の面接官(専任教授)から研究計画書について鋭い質問を受けることになります。自分としては十分に受験対策を行ったつもりでしたが、私の研究計画書はかなり甘かったようで厳しい突込みがあり、散々な面接でした。ただ、論述試験は上々の出来だったと思われ、辛くも合格証をいただき胸を撫で下ろしました。


3.入学式及び研究活動開始
入学式は仙台市郊外の国見キャンパスで粛々と執り行われました。天気はあいにくの雨模様。私の入学年度は7名と例年に比べても少ない入学者で、通信制の総合福祉学研究科の入学生は全員社会福祉学専攻とのことでした。入学式の出席者は私を含めてわずか2名。例年はもう少し多いらしいのですが、今年は時期的なタイミングの影響があったようです。通信教育部については入学式を行わないそうで、周りを見ても学生・院生は18才~20才前後の方ばかり。式開幕の凝った演出に、「おぉ~!」と感嘆の声が方々から聞かれました。新入生の多くは驚いていたようです。私が18歳の頃に経験した法政大学の入学式は武道館で挙行されましたが、特に感動した記憶は残っていません。当該入学式においてはオリエンテーションの指示も親切でしたので、大学からの待遇という点に関しては、今の現役学生(通学生)は恵まれていると言えそうです。

   

大学の公表データによれば社会福祉学専攻の修了率は約65%とのこと。その中には3年から4年をかけて修了した方も含まれていますので、修業年数2年でストレートに修了できる院生は約半数。通信教育部の卒業率に比べれば高いとはいえ、院と学部における母集団の平均学力及び経験値の相違を加味すれば、心して取り組まなければ修了まで辿り着けないことが予想されます。通学制と合同の入学式に参加し、通信制大学院専用の入学オリエンテーションに出席したことで、ストレートに2年で修了しようと決意を新たにしました。

 

オリエンテーション時には担当教授の引率のもと、教職員と院生しか入れない閉架書庫にも案内されました。福祉関係の蔵書の充実ぶりに感動し、「ここには東京に行かずとも何でも揃っている。」という教授の話が確かであることを実感しました。


4.研究科目の履修システム
東北福祉大学通信制大学院を修了するには、2年間在籍し、その間に研究科目を20単位以上、演習科目を2単位以上、修士論文科目(社会福祉学特別研究という科目名)を8単位、合計30単位以上修得する必要があります。入学オリエンテーションでもアドバイスがあったように、1年次は研究科目と演習科目の単位を取り揃えることが第一目標になります。
本学の研究科目には同じ科目名を冠する演習科目が配されており、同じ科目名の研究科目の単位を修得しないと演習科目の単位も修得できないシステムになっています。この点は十分留意して履修計画を建てる必要があります。
 

研究科目は通信教育課程の要であり、その学習方法はレポート作成となります。単位を修得するには、科目ごとに2課題が設定されていますので、課題ごとに4,000字程度以上の分量を作成します。2課題とも合格すると、晴れて単位修得試験を受けることができます。課題レポートの字数上限は特に設けられていませんでした。私は毎回6,000字から8,000字のレポートを提出し、全ての科目において「優」評価での単位修得に至りました。レポートの講評は非常に丁寧で、作成しがいがありました。

なお余談ですが、大学から定期的に送付される冊子として「with」があり、大学院生への連絡事項についてはA3版の別紙に記載されています。「with」は通信教育部の冊子であるので院生には関係ないのですが、学部生も社会福祉士を始めとする国家試験に向けて懸命に学んでいる姿がうかがえる記事もあります。東北福祉大通信教育部の国試合格率は例年高く、真摯に勉学に取り組んでいる方が多い印象を受けます。厚労省の発表によれば、大学通信教育課程の社会福祉士の合格者数は、日本福祉大学通信教育部(愛知県)が圧倒的な数を誇っていますが、大学通信教育課程の合格率では東北福祉大学通信教育部が全国1位である年が多いことがわかります(合格者数は概ね2位)。日福大のレポートは国試に即した形式が多く、試験も在宅試験方式を採用するなど社会福祉士や精神保健福祉士の受験に特化している印象を受けます。それとは対照的なのが東北福祉大で、課題レポートでは中央大や法政大といった一流私大の通教と同等量の論述を行なう必要があり、より深く体系的に社会福祉学を理解する手助けとなります。加えて科目試験についても、終戦直後の黎明期以来の老舗校と同様に試験会場で受験する必要があるなど、アカデミックスキルを重視した教育姿勢は高く評価されて良いと思います。やや極論をおそれずに表現すれば、資格はその道を歩むパスポートを得たことを意味するものではあっても、その道を踏破できる素地を保証するものではありません。現行の社会福祉士国家試験はマークシート形式ですが、現実の社会福祉問題を解決するには物事を多面的に把握し、論考する力が欠かせません。その意味において、論述レポートを重視している教学システムからは、資格取得の先を見据えた能力の涵養、すなわち課題発見力と課題解決力を養う場を学生に提供しようという意気込みが感じられます。日福も大学全体としては研究力と教育力を兼ね備えた福祉系の伝統校ですが、こと大学通信教育に限ってみれば、関東甲信越以北の方々には東北福祉大学通信教育部をお勧めしたいところです。

 

5.演習科目の履修システム
演習科目はスクーリングがメインとなりますが、通信制大学院の事務室が通信教育部内に設置されていることもあり、開講場所は概ね東口キャンパスで行われます。同キャンパスは旧代ゼミ仙台校舎を改装したビルキャンパスで、通信教育部生や看護学生(東北福祉看護学校生)など社会人学生にとって通学に至便な場所に立地しています。修了に要する最低修得単位は2単位、つまり1科目だけで事足りるのですが、私は2科目4単位を受講し、どちらも「優」評価で単位修得しました。どちらの演習科目も極めて密度の濃い科目内容で、教授や他の院生との対話形式で進められます。やはり対面講義は知的好奇心を刺激し、視野を広げ、思索を深めるのに役立ちます。

修士論文の指導教授は原則として単位修得した演習科目を担当する教授の中から希望することになりますので、修論を見据えた演習科目を選択する必要があります。

  

ただ、個人的には、「社会福祉学演習」だけは修論のテーマにかかわらず、どの院生も履修されることをお勧めしたいです。学部の開講科目でいうところの「社会福祉原論」を発展させた内容ですので、「社会福祉学研究」とあわせて履修すべきでしょう。いずれにしても、半期ごとに送られてくる履修状況票を目安にスケジュールを確認すると安心だと思います。スクーリング受講後にはその受講年度内に課題レポートを提出する必要があります。文字数は教員によって異なりますが、研究科目とほぼ同様です。科目の性格から言って、修士論文執筆の肩慣らしという位置づけが可能であると思いますので、時間をかけて取り組むのも良いかもしれません。


6.修士論文
修士課程の中心になるのは、何といっても修士論文の作成であることに異論はないでしょう。研究科目や演習科目の履修は、より優れた修士論文を執筆するための素地といっても過言ではありません。修士論文作成は二年次から本格化しますが、良い修論になるかどうかの勝負は1年次の段階ですでに始まっています。修論作成に要する時間は約1年間と言われていますが、早期にどれだけ研究計画を練り上げられるかがまず重要になってくると思います。実際、私は1年次で修論以外の全ての単位を修得して2年次は修論に専念できましたが、それでも最終年の1月中旬ぎりぎりまで時間がかかりました。
 

本学では二年次に進級すると、まず構想レジュメを提出します。そして順次、第1回中間レジュメ、第2回中間レジュメと作成していくことで、修士論文作成の目安とします。これらの修論進捗状況に合わせたレジュメの提出は、通学課程における研究の中間発表会の代替的仕組みと言えます。後日に送付される各レジュメには、提出した院生全員の修論の概要が掲載されることになりますが、徐々に提出者数が減っていく推移を見て、修了率のデータが正しいことを理解することになります。私の同期は7名であるのに当初11名となっているのは、過年度生が4名在籍していたからです。しかし最後のレジュメの段階では9名に減っており、過年度の方が2名、今年度の論文提出を断念されたようです。

修論提出までに指導教員からの面接指導3回以上、通信指導2回以上が必須となりますが、私の場合は5回の面接指導を受けました。また、研究内容が人を対象にした実証研究でしたので、大学院の倫理規定審査をパスしてからの調査活動となりました。

8月から10月にかけてデータを採取・整理し、11月から執筆を始めました。それから提出期限までの2ヶ月半は、仕事以外の時間はほぼ修論のことばかり考えていたと思います。毎日深夜まで机に向かって仕上げた結果、最終的な分量は、文字数10万字強に図表が約40枚となりました。

修士論文の口頭試問は2月上旬に実施され、主査及び副査の教授を前にして論文内容を説明したあと、主に副査の先制から質問を受け、逐次回答するという流れで進みました。私の場合は和やかな雰囲気のなか行われ、試問時間は40分ほどでした。両先生から修論を基に学術(原著)論文として学会誌に投稿することを勧められました。

  

後日メールでも高い評価を頂き、この大学院で学んで本当に良かったと達成感はひとしおでした。修了の決定通知が送られて来たのは3月初頭のことでした。


7.学位記授与式
2017年3月20日、国見キャンパスにて学位記・卒業証書授与式が執り行われました。私は通信制大学院の総代に選ばれた関係で、他の修了生より早い時間に控室に入りました。通信教育部の総代の方と一緒に式典会場で予行演習を行ったあと、控室(通信生の控室の隣室)に戻って担当職員の方と3人でお弁当を囲みました。朝方こそ曇りでしたが次第に晴れ間が広がり、入学式の時とは正反対の清々しい天気に。通学課程の若人たちの笑顔が映える式典日和となりました。

  

通信制大学院生の控室は通信教育部生と同室で、ざっと数えたところ併せて100名ほど入室されていました。通信制大学院の修了生は全員出席でしたが、通信教育部の出席率は3割程度ということになるでしょうか。今年度の通信制大学院の修了生は社会福祉学専攻5名のみですが、M2の在籍者数は社会福祉専攻11名、福祉心理学専攻1名であることから考えると、通学生に比べて修了率は高いとは言えないようです。やはりその主な原因は、修論が思うように進まないことにあるとのお話でした。式の冒頭に流れた思い出アルバムでは、阪神タイガース監督に金本氏やプロゴルファーの松山選手といった有名卒業生が祝辞を述べられており、母校愛が感じられる一幕でした。

 

学位記・卒業証書の受け取りは、大学院博士課程、大学院修士課程、大学院通信制修士課程、総合福祉学部を始めとする各学部、通信教育部の順に行われ、それぞれ総代の方々が学長より授与されました。学位記を授与される際、昭和から始まる生年月日を呼ばれて少し恥ずかしい気持ちになりましたが、表面上は凛とした姿勢で臨むよう努めました。学長から直にいただいた時は、照明の効果もあるのでしょうが、式台が白亜に輝いて見えました。二度とはないであろう貴重な経験をさせていただきました。

  

学位記・卒業証書授与式の終了後、再び控室に戻って荷物を持ち移動。音楽堂ホールに付属された学生食堂「風土」で卒業パーティが催されました。通信教育課程の卒業パーティに学長が参加されるということは他大学にはあまりないことだと思います。社会人学生に対する大学側の心遣いが感じられ、この大学で学べたことは本当に幸いでした。

  


8.地方在住社会人にとっての通信制大学院の効用

分野によっても様々でしょうが、現場では学べない視点や観点を会得しながら、実践の理論化、あるいはその逆に理論の実践化の機会が得られる点に最大の効用があると考えます。殊に社会福祉分野においては理論と実践の好循環サイクルが不足しがちであると言われており、理想・理念と現実・現場とをつなぐ架け橋となる人材が強く求められている時世なので、どのような研究・学習形態であるにしろ、大学院は社会人にとって最良のステップアップ、またはジョブチェンジの機会を提供する場だと思います。社会人のリカレント教育が叫ばれていますが、大学院での研究活動がその筆頭に位置することは言うまでもありません。

 

なお、2年次に入った段階で、東北福祉大通信制大学院独自の給付型奨学金に応募することができます。年間学費の4割相当の額になりますので、私のような苦学生には大変ありがたい制度です。応募には1年次のうちに一定以上の成績で20単位以上を修得することが必要で、申請したところ給付が認められました。修論作成用の文献購読等に使わせていただき、感謝しております。今後は、複数の関連学会に所属して原著論文を学会誌に投稿するなど、現場に身を置きながら理論と実践とをつなぐ役割を果たしていく所存です。

 

このブログをご覧になった向学心に燃える方々が「現場に身を置く研究者」を志し、通信制大学院の門を叩くことを願っています。そして、もしあなたが社会福祉士や介護福祉士などの専門職として就業されているのであれば、ぜひ東北福祉大学通信制大学院の受験を検討してみて下さい。様々な意味でご自身の可能性が広がると思います。

本稿は、「Rstudioで社会福祉を考える」というテーマの第一弾として、社会福祉系学部と法学系学部におけるディプロマ・ポリシーの比較を通じて、四年制大学における社会福祉教育が学生に何を学ばせようといているのかを量的に分析することを趣旨としています。要するにテキストマイニングを行うことになりますので、その分析にあたっては対象テキストに対して統計的手法を用いることになります。分析ツールとしては、フリーソフトでありながら信頼性と拡張性に優れた統計分析ツール「Rstudio」を使用します。なお、ここでの分析手法は単語間の共起関係に着目したネットワーク分析を採用し、OSはWindowsを想定しています。

では、すでに「R」及び「Rstudio」並びに「MeCab」をお使いのパソコンにインスールされていることを前提に、順次見ていきたいと思います。

 

 

(1)以下の大学群における社会福祉系学部のディプロマ・ポリシーを30校分集めて、テキストファイル(txtファイル)に保存します。保存したテキストは、「サクラエディッター」などのテキストエディッターを使って整形します。サンプルの抽出方法は、母集団の少なさを考慮し、層化抽出法に準じた方法をとり、また、「○○大学○○学部では」のように分析対象とはならないにもかかわらず頻出する単語については、テキスト整形の段階で削除しています(法学系学部も同様)。

 

①いわゆる福祉三大学(日本社会事業大学、日本福祉大学、東北福祉大学)

②社会福祉学の老舗私立大学(同志社大学、関西学院大学、明治学院大学、東洋大学など)

③社会福祉学が学べる数少ない国公立大学(大分大学、愛知県立大学、福井県立大学など)

④社会福祉系学部としての後発ではあるものの上位偏差値の大学(立教大学、法政大学など)

 

 

(2)以下の大学群における法学系学部のディプロマ・ポリシーを40校分集めて、テキストファイル(txtファイル)に保存します。

サンプル抽出方法等については、社会福祉系学部と同様です。

 

①旧帝国大学(東京大学、京都大学、東北大学、北海道大学など)

②上位国公立大学(神戸大学、金沢大学、岡山大学、大阪市立大学、首都大学など)

③旧制大学以来の法学系学部を擁する私立大学(中央大学、明治大学、法政大学、日本大学など)

④その他の首都圏及び関西圏の主要な私立大学(上智大学、立教大学、学習院大学など)

⑤地方の有力私立大学(南山大学、愛知大学、西南学院大学、東北学院大学、北海学園大学など)

 

 

(3)MeCab辞書の追加します。

図1のようにExcel上で独自に追加したい単語を一覧表にし、csvファイルに保存し直します。

本稿の場合は、「リーガル」を辞書登録します。その理由は、デフォルトのMeCab辞書では「リー」と「ガル」が別々の単語として認識されてしまうことから、「リーガル」の分割を避けるためです。他にも登録すべき単語があれば改行して同様に入力します。

 

<図1 MeCab辞書への単語登録用ファイル>

 

次に、コマンドプロンプトを開きます。コマンドプロンプトはWindowsに始めから備わっているPC操作ツールです。どのフォルダにあるか分からない場合はPC内を検索するとすぐ発見できますので、そのアイコンをクリックして起動します。すると下の図2のような黒塗りの画面が開きます。開いたら、cdコマンドを使用してMecab内のbinフォルダに移動するコードを記述し、Enterキーを押して実行します。

 

<図2 コマンドプロンプトでの操作例1>

 

さらに、図3のようにコードを打ち込んで実行します(Enterキーを押す)。打ち込むコードは、「mecab-dict-index.exe ~ \rdictionary.csv」の部分になります。すると「done!」と出力されます。

 

<図3 コマンドプロンプトでの操作例2>

 

ちなみに、コード内に余計なスペース(空白)があったりすると上手くいきません。図4はその一例になります。

 

<図4 コマンドプロンプトでの操作例3>

 

一見すると図3と変わりないコードのようですが、「no suchi file or directory」とエラー表示が出ています。「Program Files(x86)\MeCab\dic\ipadic\dicrc」に該当する箇所をPC内で見つけられませんでしたという意味です。この原因は、

「Program Files (x86)」

と記述すべきところ、

「Program Files(x86)」

と記述してしまった点にあります。両者の違いがお分かりになるでしょうか。スペース(空白)の有無が失敗の原因になる場合は少なくないようですので、もし上手くできないときはその点を疑ったほうがよいかもしれません。

 

 

(4)Rstudioを開き、ネットワーク分析のソース・コードを入力し、実行します。

 

<図5 Rstudioでのソース・コード例>

 

事前にdplyrやigraphをインストールした後、上記のようなコードを入力します。今回は参考文献に掲げる石田(2017)に従って、パイプ演算子を一部導入していますが、もちろん通常の「<-」を使って記述しても問題ありません。同参考文献はテキスト分析の入門者や初級者にとっては必携ともいえる良書ですので、お手元に置かれることをお勧めします。

 

ただ本稿では、ノード(点)とエッジ(線)に共起頻度を反映させるため、plot関数内でvertex.sizeとedge.widthを指定し、重みを加味したコードを追記しています。具体的には、ノードについて「vertex.size = 2.0 + nodeweight$vector*180」と指定し、 エッジについては「edge.width = E(carenet6)$weight*0.5」と指定しています。本稿の場合はネットワークグラフを通じて概要を把握することが目的なので、数理的な厳密性よりもノードやエッジの大小判別性を重視し、重みを調整しています。ですので、同様の趣旨でネットワークグラフを出力してみたい場合は、数字の部分は色々と変えてみてご自身が最適だと感じられるものに調整してみてください。ちなみに、「vertex.size=2.0」の部分は、ノードの大きさを最小でも2.0以上とすることで、ノード間の大小さが大きい場合に最小ノードが見づらくなってしまうことを防ぐためです。ネットワーク分析の詳しい解説については、鈴木(2017)や金(2017)を参照するのが良いと思います。

 

なお、集計する単語は名詞のみとし、「学部、学科、単位、学位、学士、卒業、ため、もの、こと」を除外しています。これらの単語を入れてしまうと、福祉系と法学系の相違が分かりづらくなってしまうことから、本稿ではコード上で除いています。

 

 

(5)分析結果と解釈

①社会福祉系学部のディプロマ・ポリシーのネットワーク分析

 

<図6 共起頻度表1>

 

まず、先のソース・コードを実行した際に出力される共起頻度表(図6では上位のみ)を見ると、「社会-福祉」のつながりが第一位となっています。その逆ヴァージョンの「福祉-社会」を含めると、存在感の大きさがわかります。また「専門-的」「基本-的」「総合-的」「主体-的」といった具合に、「的」をキーワードとするつながりが多いことも見て取れます。

 

この共起頻度表における頻度5回以上の単語の組み合わせを可視化したネットワークグラフが次の図になります。

<図7 ネットワークグラフ1>

 

エッジの矢印の方向は、共起頻度表でいうところのN1からN2への流れを示しています。図7を見て特徴的なのは、「多様-人々-生活-課題or問題-解決」「共生or地域-社会」「人間-尊厳」など社会福祉に特徴的な価値観を含む語のつながりが色濃く見られる点です。

 

 

②法学系ディプロマ・ポリシーのネットワーク分析

 

<図8 共起頻度表2>

 

図8の法学系の共起頻度表を見て一番特徴的なのは、やはり「リーガル-マインド」でしょう。法や政治に関する言葉が上位に来ているのが見て取れます。しかし先の社会福祉系と比べると頻度表だけでは特徴の把握がしづらいと思います。ネットワークグラフに可視化する理由はそこにあります。

 

<図9 ネットワークグラフ2>

 

図9は、共起頻度6回以上の単語の組み合わせをネットワーク化したものです。「課題-解決-能力」「課題-発見」「問題-解決」「法的-問題」「法的-思考ー能力」「法的-判断-力」「リーガル-マインド」という具合に、何らかの課題や問題を解決する法的思考力の涵養に重心が置かれていることがわかります。また、最上位頻出語に「身」がランクインしている点が、社会福祉系と趣が異なる点でしょうか。一方で、「的」を中心とする一連の語群(専門的、総合的、基本的など)は法学系と社会福祉系との間に共通する要素となっていますし、各学問領域に特有の原理原則に違いはあれども課題解決能力の修得を重視している姿勢は明らかとなっています。

 

 

(6)結論

以上のネットワーク分析の結果、社会福祉系学部のディプロマ・ポリシーのなかで最も特徴的な点は、「人間(の)尊厳」に代表される社会福祉が追求すべき固有の価値観に言及していることにあると言えるでしょう。そして、ネットワークグラフを文章化すると、社会福祉系学部の学生が到達すべき能力とは、「人間(の)尊厳(を大切にする)価値観・倫理(に立脚して)、社会福祉(の)実現(に向けて)、人々(の)生活課題(を)解決(するべく)専門的・総合的・基本的(な)知識(や)技能・技術(を)身(につける)」ことであると結論付けることができると思われます。

 

 

 

【参考文献】

石田基広(2017)『Rによるテキストマイニング入門(第2版)』森北出版

金明哲(2017)『Rによるデータサイエンス(第2版)』森北出版

鈴木努(2017)『Rで学ぶデータサイエンス8 ネットワーク分析(第2版)』共立出版