旧・紀伊日ノ御埼灯台のレンズ

 

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旧・紀伊日ノ御埼灯台のレンズ 2019年7月20日
 

2019年4月のある日、SNSに投稿された写真に衝撃を受けました。
旧・紀伊日ノ御埼灯台のレンズが野ざらしで展示されている。
...何とかしたい!
その日から今日までの経過を説明します。

1.まず最初に...
ここに登場するカナダミュージアム、及び和歌山県美浜町役場に対しての非難は行わないでいただきたいと思います。そんな事でレンズは救われません。
もしも意見を発するのであれば、レンズを救済する手段や、今後このような事が起こらないための対策など、前向きな言葉をお聞かせいただきたいと思います。
そして結論を先に述べておきます。
旧・紀伊日ノ御埼灯台のレンズを保護するための最低限の緊急対策として、ブルーシートを被せる措置を取っていただける見通しです。
また恒久対策として防雨ケースの設置を提案しましたが、こちらは予算の関係で実現が困難かもしれません。

2.紀伊日ノ御埼灯台について
まず紀伊日ノ御埼灯台について説明します。
初代・紀伊日ノ御埼灯台は和歌山県美浜町において、明治27年(1894年)5月19日起工し、同年12月31日竣工、1895年(明治28年)1月25日に初点灯しました。
その後、灯台の全焼と敷地一部崩落のため、初代灯台北東70メートルの旧海軍施設跡に第三等大型フレネルレンズと水銀槽電動回転装置、及び自動点消灯装置をそなえる新灯台(二代目紀伊日ノ御埼灯台)を建設し、1951年(昭和26年)7月12日に点灯します。
近年、付近で地割れが進行して地滑りによる倒壊のおそれがあることから、2017年3月に地盤が安定している約120m西の和歌山県日高町内に建て替えられました。
『領海及び接続水域に関する法律』等では、紀伊日ノ御埼灯台と徳島県阿南市の蒲生田岬灯台を結んだラインまでが瀬戸内海と定義されていて、非常に重要な灯台となっています。※Wikipedia『紀伊日ノ御埼灯台』を要約
なお二代目紀伊日ノ御埼灯台で使われていたレンズは、下記のようなものです。
・製造年 1950年(昭和25年)6月
・製造元 日本光機工業株式会社
・等級 第三等大型三面群閃光フレネルレンズ(バックプリズム搭載)
・製造番号 No.1020

銘板

 

バックプリズム(左右の扉に仕込まれている)


3.カナダミュージアムにレンズが展示されるまで
2016年に紀伊日ノ御埼灯台の取り壊しが決まった時、多くの灯台ファンが悲しみ、使われているフレネルレンズの行方を危惧しました。
程無くして、レンズは近くの小学校で展示されるとの情報が入り、胸を撫で下ろしたのです。
ところが海上保安庁より和歌山県美浜町に譲渡されたレンズは日の目を見ることもなく、なぜか役場の片隅に放置されます。
なぜ紀伊日ノ御埼灯台のレンズが役場に放置されているのか、職員の方も???だったそうです。
紀伊日ノ御埼灯台近くの美浜町三尾地区には2008年に廃校となった旧・三尾小学校があります。美浜町では2018年1月に地域再生を目的としてNPO法人『日ノ岬・アメリカ村』が設立され、旧・三尾小学校内に事務所が置かれました。
そしてカナダ移民の多かった美浜町にNPO日ノ岬・アメリカ村が運営する『カナダミュージアム』が2018年7月に誕生します。
カナダミュージアムは昭和初期に建設された洋風家屋を整備して公開すると共に、隣地を無償で提供してもらい、2019年2月に旧紀伊日ノ御埼灯台のレンズを展示し、今日に至ります。

雨に打たれるレンズ 2019年7月19日


4.私の取った行動
野ざらしの投稿写真を見て、まずは各方面から情報を収集しました。
そしてわかった事は...。
・旧紀伊日ノ御埼灯台で使われていたフレネルレンズは美浜町に譲渡された。
・そのレンズがカナダミュージアムの屋外に展示されている。
・屋根などは無く、雨ざらしの状態である。
近年、合理化による灯台の廃止が続いていますが、別の理由で灯台が取り壊されるのは珍しい事です。また大型のフレネルレンズが貸与ではなく、譲渡されるのも珍しいのではないでしょうか。
こうなったら現在の所有者に対して陳情するしかありません。
ただ闇雲に『何とかして!(>_<)』では効果が無いと考え、レポートを書くことにしました。光学ガラスやレンズの劣化や破損、フレネルレンズの価値、そして緊急対策と恒久対策の提案などです。
そして関係機関と直接面談する事にしました。

5.面談内容
アポイントを取って2019年7月19日に和歌山に向かいました。
当日は美浜町役場から2名、カナダミュージアムからは3名のご出席をいただきました。
『小学校で展示されると聞いていた』と尋ねると『その様な計画は聞いたことが無い』そうです。
はぁ~..."絵に描いた餅"だったか...。

担当者が変わった、引継ぎが出来ていない、一部の独断だった、関係先との連絡不足...などなど...

大人の社会で時々起きる悲劇がここで発生していました。
それでも私が作成したレポートは効果があった様で、レンズの貴重さや、放っておくと劣化してしまう事などを認識していただけました。
一方で、役場やカナダミュージアムの予算が厳しい事も説明を受けました。
何とか最低限でも良いので、雨露の防止を最優先していただくようお願いしました。
その甲斐あって、冒頭にも書きましたがレンズにブルーシート被せる措置を取っていただけそうです。
また恒久対策として、アクリルなどを使用した透明な防雨ケースの設置もご検討いただけることになりました。ただ、こちらは予算の関係で実現が困難かもしれません。

6.レンズの劣化調査
7月19日と20日の2日間で合計2時間程度の調査を行いました。
その結果、残念ながら劣化は着実に進んでいることを確認しました。
特にパテの浸食・脱落が目につきました。溶解したパテが、レンズやフレームを白く汚していたのです。

脱落しているパテ(レンズと金枠との隙間)


パテが消失すると、金枠の中でレンズが遊んでしまいます。
そうすると風などに伴う振動でレンズと金枠が接触して欠け、やがて割れて脱落するでしょう。

次にレンズを1枚磨いたところ、ガラスの腐食は思ったよりも軽傷でした。

1枚だけレンズを磨かせていただきました

(下から4段目:透明過ぎて在るのか無いのか分からない?)

 

個人的な見解ですが、2~3年でパテが完全に消失するのではないかと思いました。その辺りのところをカナダミュージアムのスタッフの方に説明しながら調査しました。このままでは展示品としての役目を果たさなくなってしまう事をご理解いただけたようです。
パテが消耗した際の修復方法として、どのような対処を行えばよいのか教えて欲しいとの事でしたので、調査して連絡する事にしました。

7.今後の課題
旧・紀伊日ノ御埼灯台のレンズについては、少なくとも必要最低限の措置を取っていただけそうです。そうした場合、延命と言う意味では効果がありますが、そのままでは各所がいずれ欠損する事は避けられないでしょう。
他に我々にできることは何なのか、よく考えたいと思います。
そして大切なのは、二度とこのように不幸な事例を起こさない事です。
この件に関しましても、様々な方々のご意見を伺いながら、何らかの行動を起こしたいと思っています。

後ろの扉を開けて...


最後までお読み頂き、ありがとうございました。
では、また!