【鏡】
神奈川にある、とある武家屋敷跡の建物で
何日かロケをしていた。
撮影場所の隣の、中庭に面した部屋に照明
機材を置いていて、中庭には制作部が用意
したお茶セットのテーブルがセッティング
されていた。
夕食前の予定がさのシーンのライティングも
一段落したので、僕は一息つこうとお茶セット
のところに行くと、機材置き場の畳の上に
照明で使うための鏡が仰向けで無造作に
置かれているのを見つけた。
片付けようと近づいたところに、助手さんが
丁度機材を取りにきた。
「おい、ミラーがそんなところにあって、
誰かに踏まれでもしたらどうするんだ。
ちゃんと片付けなきゃ」
「あ、すんませーん!」
助手さんが鏡を手に取ろうとした。
鏡は仰向けに置いてあるから、天井が
映っている。
助手さんは手だけを伸ばし、鏡を床から
拾い上げる瞬間。
鏡には天井ではなく、真っ白い顔をした
男の顔が映っていた。
鏡いっぱいに。
僕は怖かったけど、助手さんが片付けた
箱からその鏡を取り出し、再び元にあった
場所に置いてみた。
どんな角度から見ても、その白い顔は
二度と映る事はなかった。