醒めない / スピッツ その2 | A Flood of Music

醒めない / スピッツ その2

この記事の続きになります。


08. ハチの針

 今作でいちばん解釈のし甲斐があると思われる草野ワールド全開の歌詞。し甲斐があるということはそれだけ難解だということで、まだ解釈しきれてませんが書き進めます。

 "魔女", "どでかいヤツ", "亡霊"などファンタジックな世界観を思わせる言葉が出てきますが、そんな中で"ハチの針"はとっておきの必殺技として位置づけられている感じ。歌詞の全体的なテーマは、自身を欺こうとする者たちへの対抗だと思うので、対抗手段としての"ハチの針"ということか。他にも"松明"や"光の玉=信号弾?"など冒険を手助けするアイテムも出てきますね。

 サウンドもアドベンチャー感溢れてます。格好良いギターリフに力強いベース、ドラムも着実な前進を表しているような刻み方で好きです。それらがサビでは綺麗目にまとまるのがいい。もちろんそこからまたクールな感じに戻るのも。

 だけどこの曲でいちばんグッときたのは間奏後の"シラフで~"のパート。格好良さでいったらこのアルバム随一だと思う。このパート、初聴で歌詞カードを目で追いながら聴いていたとき、文字数の多さにもしかして次の部分はラップか?と身構えていました。ラップではありませんでしたが、メロディーの起伏を抑えて言葉を多く乗せている点ではラップ的だと思う。歌詞もここのパートだけは現実的な感じ。

 あと、"LOL"という言葉が出てきますが、これはやっぱり"(笑)"のことでしょうか。文脈的にはそれでいいと思うんだけど。


09. モニャモニャ

 「なんじゃそりゃ?」な謎タイトルその2。一体モニャモニャって何なんだ、やっぱりジャケットと歌詞カードのアイツのことなのか?と疑問に思いましたが、公式サイトにある田家秀樹氏のライナーノーツを見たら、それでいいみたいですね。笑

 バンドサウンドよりはプログラミングの装飾が目立つこのアルバムの中では異質な1曲。歌詞もメロディーもサウンドも優しくあったかくて眠気を催しそうな感じ。でもこの感じこそがこの曲の持つ役割なんだと思います。ここまで気が張った内容の曲が多かったので、緩急をつける意味でも、リスナーに一息ついてもらう意味でもここに配置されたのかなぁと。

 ここで急にアンドロジナス的解釈に触れますが、アンドロギュノスになるための放浪記にも休息が必要というか、逃避したくなっちゃうよねという意味合いもあるのかなと思いました。"モニャモニャ"は各人が癒されるものを当てはめればいいんではないでしょうか。


10. ガラクタ

 41stシングル「みなと」のc/w。

 ガチャガチャと色んな音がする楽しい楽曲。打ち込みかと思ったけど、クレジット見たらトイピアノとリコーダーでプログラミングじゃなかった。

 これも「ハチの針」に負けず劣らずの草野節全開の不思議な歌詞。でもこれは詞中にある通り"ラブストーリー"の歌なのは間違いないでしょう。久々の再会からのフォーリンラブって感じかな。「ガラクタ」というタイトルや"ゴミ箱", "対象外"という言葉から、除け者同士くっついちゃえ的な恋かなとも思った。米でも麦でもなく"粟 稗 コーリャン"ですからね。笑


11. ヒビスクス

 面白いって意味じゃなく、その言葉何?って意味で「なんじゃそりゃ?」と思ったタイトル。また「オパビニア」的な古代生物か?と思いましたが、調べたら花の名前でした。スペルを見て納得、hibiscus…ハイビスカスか!歌詞中にも出てくる"白い花"もこれでしょう。

 SUBARUフォレスターのCMソングで、ハワイで撮影されたPVも存在し初回限定盤のBD・DVDに収録されています。

 イントロの緊張感のあるピアノからただならぬ予兆を感じさせる開幕。自身の行いを問う独白から始まり、視点は一気に空へ。眼下には"クジラの群れ"、そして"約束の島"に咲く"白い花"。俄に勢いを増すメロディーとリズム隊に引きずられる形でそのまま一気にサビへ。サビは疾走感に満ちた綺麗だけど力強い旋律。"しゃがれ声"に諭され島に降り立つ。その島には、"白い花"や"黒蜜(=サトウキビ)"が生えていて、季節は"セミ"が鳴く頃。"岬"が在り、そこでの生まれ変わりを決意する。といった展開。

 歌詞の情景描写と視点移動が素晴らしいです。それがメロディーと見事に調和して、頭の中にダーッっと映像がなだれ込んでくる。PVはハワイだけど、どっちかというと沖縄の離島が浮かんでくる。まあこれは僕が何度も沖縄に行ったことがあるというのもあるでしょうけど。

 それにしても草野さん"白い花"好きですね。「トゲトゲの木」「プール」「ルナルナ」「ババロア」「ワタリ」に続いて6曲目かな?


12. ブチ

 セルフプロデュース楽曲。しかしアレンジにクジヒロコさんが参加しているので、シンセやボコーダーで面白く彩られた1曲となっています。

 "君"を異性と捉えれば、俺だけはお前の魅力に気付いてるよ的なラブソングにも取れるし、"聴き手"と捉えれば、スピッツからの励ましソングに取れる。いずれにせよ、日陰者応援歌って感じがしました。劣等感の扱い方を正しく、安全の過信は厳禁など、生き抜くためのTipsがここにはあります。

 個人的に気に入ったフレーズ"優しさ風(ふう)の想い"。これ便利。"○○風の想い"って表現したくなるような微妙な感情ってあるよなぁ。


13. 雪風

 配信限定2nd(通算40th)シングル。配信では購入していなかったのでこのアルバムで初聴。

 最初はキャッチーで美しいメロディでいい曲だなぁと単純に思っていましたが、何度も聴くうちに、詞の持つ世界観に狂気を感じ始め、サビのメロディが綺麗だけど心にちくっとくるような刺があるなと思うようになりました。可愛らしいアレンジに騙されたぜ。笑

 "雪風=地吹雪"が吹く"白い世界"で"巻き戻しの海"を泳ぐ。これだけでまずとんでもない環境下から歌が始まってるなと思い戦慄する。"巻き戻しの海"というのは時間軸の比喩とも思えるけどね。

 続く"割れた欠片"というのも、「子グマ!子グマ!」の"僕の分身"と同じ自分の要素のような気がしてならない。それを探しに行ったことを振り返る内容のサビ。"?"連発で誰かに問いかけていますが、"雪風の中"、届いているのだろうか。僕は、この相手は自分自身=失われた半身ではないかと思うわけです。

 そして2番で舞台が"現実と離れたとこ"であることが明かされる。悲しいことに現実では"もう会えない"(と思っている)らしい。だけど自分の半身と本当に会えるとしたら精神世界、夢の中だよなぁ。だけどサビの歌詞から察するに、今夢の中にいるのはポジティブな感じではなく逃げ込んでいるといった印象。ここに居ないで目醒めて笑ってくれという気遣いに涙腺が緩む。

 続く歌詞が非常に好きです。"君は生きてく 壊れそうでも"。少し逸れますが、平沢進「アディオス(Adios)」の歌詞"行こう どこかでは 荒んでもキミはまだキミ"のような、どんなに変わったようでもお前はお前のまま続くんだよ、的な歌詞に弱いです。

 最後の問いかけは、雪風が止んで光が射したと思われる描写の後なので、きちんと届いている気がします。


14. こんにちは

 ラストは「ブチ」と同じくセルフプロデュース楽曲。アレンジもスピッツのみのロックなナンバー。

 レビュー記事その1の「醒めない」のところでも若干触れましたが、この「こんにちは」で会えたのは自分の半身だと解釈します。再びアンドロギュノスになるための放浪の終点。ただ、もちろん現実で自分の半身と会うということは不可能なので、ここでは自分の半身を見出せるような誰か、伴侶であったりかつての友人であったり、自分を構成し得る或いは構成している人との出会い・再会の歌だと思います。

 公式サイトにある田家秀樹氏のライナーノーツも読んだ上で、「こんにちは」を含めた『醒めない』全部を通して思ったことを以下に書き連ねます。

 人は他人の中に自分を発見する生き物だと思います。他人の中に自分が居たから共感できる、或いは逆に、他人の中に自分を見たから嫌悪するということもある。また、他人の中に自分が持っていない要素を見つけると、それに惹かれて共に居ようとしたり、反対に、妬ましく思って遠ざけようとしたりすることもある。こうやって同じ部分を共有したり異なる部分を補ったりして、人は自分を完成させていくんだと思います。その繰り返しがアンドロギュノスな状態へ近づく道筋ではないでしょうか。

 年齢を重ねると、どうしても零れ落ちていくものが多くなりがちですが、それらもかつては自分が所有していたもの。所有していた時期に関わりがあった人たちは、その欠片を持っているかも。同じように自分も誰かの欠片を持っているはず。再会しなければそのまま埋もれてしまうものですが、「ガラクタ」にもあるような"不思議な縁"でまた会うこともあるのが人生。その時に互いの欠片を交換することで、忘れていた自分が帰ってくるような感覚を覚えると思います。慣用句で言えば"思い出話に花が咲く"や"焼け木杭に火がつく"なんかに表れている感覚。まさにそれを感じている時こそが、自分の半身と会っている時ではないでしょうか。

 補足すると、新しい人との出会いは、まだ見ぬ自分の発見ですかね。でもそれも実は遥か昔に自分が持っていたものなのかも。神様によってバラバラにされちゃっただけで。笑

 「醒めない」で書いたことの繰り返しになりますが、このアルバムは"再びアンドロジナスになるための放浪記"だと解釈しました。田家氏のライナーノーツでも言及されていますが、「再生、再会、そして、再出発。」とあるように"再"もキーワードですね。"自分"を含んでいたのに失ったもの、手放したもの、離れて行った人、距離を置いた人…でも実はみんなこっそり欠片を持ってるんじゃないの?という期待も抱きつつ、いつかまた会えたらいいね。そういう思いを感じたアルバム『醒めない』でした。


 かなり長くなりましたが以上です。2記事あわせて数日に亘って書いたので、整合性が取れていなかったり一貫性に欠く記述があるかもしれませんが、"解釈に正解はない"というマジックワードで許してください。


 最後に個人的なフェイバリット・ベスト3を発表して終わります!

  歌詞部門:1.「雪風」、2.「コメット」、3.「ブチ」
  メロディー部門:1.「子グマ!子グマ!」、2.「雪風」、3.「ヒビスクス」
  演奏部門:1.「子グマ!子グマ!」、2.「ハチの針」、3.「ヒビスクス」

 こうして書き出すと「子グマ!子グマ!」がいちばん気に入ったみたい。僕にとってはこれが"最初ガーンとなった"んです。笑


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