現役退職後に気付いたこと

   
   現役時代、「趣味」を育てるのに、時間が少なすぎることで、憂鬱だった。もっと自由な時間がほし
い!!  と。職場ではある程度責任のある立場であったので、忙しさも人一倍であった
  自分の時間を作り、気分転換をしての「ログハウス建設」だった。今、こんなに元気に出来る自分
はまだ若いのだ、という自負心もあった。休業日にはほとんど現地に出向いて、工事に携わった。一
つ一つ 物が出来るたびに歓びと、新しい夢が広がった。
  退職という大きな節目が過ぎて、「時間はタップりあるんだ」と思っていた。ところが、手塩にかけて
作ったハウスは気が付いてみると何か薄汚れた建物に変わっていた。完成してわずか5年なのに。
  ログ材の一部は防腐剤があせて色がはがれ、16センチ幅の松のログ材に多くの亀裂(割れ目)を
発見した。太陽・雨・霧・雪そして風、これら生き物への恵みの栄養剤が、加工された材木に対しては
むごい仕打ちを繰り返していた。
 竣工僅か5年目にして、ログハウスは治療を待っていた。

 

    5年前の足場用に使った杉材に「番線」を巻いて垂木を組む。防腐剤塗布には女房も手伝ってくれた。

  

  あり合わせの足場材は傷みがひどい。でも決してずり落ちる心配はないように!自分が乗るんだから!

      

 さすがに屋根部分は「男の仕事」である。命綱を張りめぐらして高所へ挑戦。足元には自然と力が入ってしまう。

  地上から見た目よりは、ドーマーを囲ったログ板部分(ここには柱状ではなく、幅2センチ位の板張り)
は朽ちていた。向こう1年も経たずに穴が開くかもしれない。擦ると表面がボロッとはげおちた。
  正に、最適なタイミングだった。時間はたっぷりあるので、数日の泊まり込みを開始。高価ではあるが
浸透性の強いドイツ製の”キシダデコール”1斗缶2本を塗り、ログ全体の塗装が完了した。
   準備を始めて2週間目の10月13日から南側の壁から西回りに順次足場を組み直して、10月31日の丁
度一か月間で工事は終了した。(時間的余裕はあるが、なぜか体力と気力に限界を感じた工事だった) 

  
            早速、孫たちも集結。(祝)五周年のパネルを?製作してくれた

                        

11月の連休当日には家族も参加、特に建設時に随分お世話になったお二方も駆けつけてくれた。
     例によって、バーべキューの「祝賀会」である。
   当方からの、足場作りや塗装の苦労談が終わるのを待ちかねたように、ログハウス建設の時の思い
出話に変わると、つい、時の過ぎるのも忘れ話し込んだ。孫や家族の大半は屋内に引き上げていた。
           
        〈そして、またたく間に10年が経った〉

   平成26(2013)年、いつのまにか?古稀を迎えることとなった。10年前に全面塗装して既に10年の歳
月が経った。あの時、風雨の当たりやすい北側よりも太陽の日を受ける南側、また西日がさす西側の傷
みがひどかった・。
  デッキのフェンスは腐食がログの中身を蝕み、一部が重さに耐えられず落下したのである。フェンスは
長いボルトで支えているが、そのボルトをすり抜けての落下であり,手で押すとゆらゆらと動いた。危険性
を感じた。
    屋根のスレートの色ははがれ、灰色のコンクリートが見えるような痛々しいまばらな屋根に変わった。
   大治療が必要になったことを感じた。
  この年齢では、もう10年前と同じことはできない。・・・どうしたものか?!・・・
 
  命がけでメンテナンスに挑戦

    前に使った足場の杉材はとっくになくなっていた。いや、その後の建築法には安全で強固な材料を求
めている。「鉄パイプの組み立て式の足場」である。業者のレンタルは、途方もない費用である(借用期
間にも制限がある)如何に安く そして、腕力の衰えた自分に間に合うことは何か? 早速、ホームセンタ
ー通いが始まった。”最低の予算で効率よく” をモットーに、壁の一面のみの鉄製のポール・足場台・付
属のアタッチメント・細パイプなどを購入、ホームセンターの軽トラを借りて運搬終了。

      
  土台の高さ調整がポイント       今回も女房に助っ人を依頼          順次場所を移動、組み立て 

     

足場移動中も女房の1階塗装       ドーマー部分の足場作り           板の腐食をトタンで補充 
 
     ドーマーを囲っている薄いログ板の腐食は、予想以上に痛んでいた。斜面の一番工事の難しい 南
側は採寸やトタンブリキの切断に予想以上に苦労した。すくんだ足を梯子にからませて固定しての貼り
付けだった。
  特に、北側壁の傷みは少ないものの、「これが最後の機会」だけに、思い切って処理した。地上約15
メートルの高さが、嫌でも恐怖心を誘い、採寸・貼りつけ etc   が南側以上に思うようにいかずいっそ"あ
きらめようか?” ・・・途方に暮れながらの格闘の末ようやく取り付けを完了した。

     最も危険個所で、難儀なスレート(屋根瓦)への防護剤塗布

   最後に、一番嫌な工事となった。足場を支える鉄パイプは地上からは届かない。むしろ届いても鉄柱
を支える膨大な資材が要る。手持ちの僅かな資材では到底不可能である。
  もちろん当初からそれを予測して、デッキに固定する方法をかんがえていたのだが・・。「もし、工事中
に屋根から転んだらどうしよう・・・」体重とその衝撃を支えるためには、どの程度の 頑丈さが必要か?
そんな計算や使う用具は私にはわからない。
  取りあえず、屋根 の反対側から登山用のザイルろ引いて柱を支え,命綱にすることに。準備するのに
まる1日かかった。女房は「何をゴチョゴチョしているんだろう」とあきれていたかも知れない。
  万一落下し、重症あるいは死亡となると、笑い話にもならない。という、不安があった。

   

     デッキにパイプ支柱を固定         軒に固定し、ザイルで縛りつける       塗料が白く剝げたスレート

      

  傷みのひどい所の下塗り       梯子階段を作り順次上へ       頂上付近では、神経集中

    

        このスタイル、この勇気、私にとって今生最期の「パフォーマンス
 
  どうやら、事故なく屋根の塗布終了。作業が終わってデッキに帰ってきた時、正直、「生きてて良か
った」と思った。
  壁周りの防腐剤塗布が一段落した女房は、この15年間でくすんできた屋内備品のイメージチェン
ジ(再生)を図るべく、果敢に化粧にとりかかる。・・・
                                                     ― つづく ―