※今日の記事には自傷行為に関連する記述が含まれます。
そういった表現に敏感な方の閲覧は自己責任でお願い致します※
※今回の記事より、より臨場感を出すために私の言葉を大阪弁で表記します。
関西弁での表現に敏感な方の閲覧は自己責任でお願い致します※
とりあえずトワくんを連れて近くのファーストフード店に入る。
私はその頃喫煙者だったのだが、彼がさっき煙でむせていたことを思い出し、当時は少なかった禁煙席に陣取る。
外見は10代後半の女性(しかもゴスロリとかパンクとかそういう感じの)ではあるが、精神面では10歳の男の子。
そうそう適切な話題も見つかる筈がなく、微妙に気まずい空気が漂い始めた。
場の雰囲気を変えるべく、とりあえず共通の話題を持ち出してみることにした。
「そういえば、今チカはどうしてんの?」
彼らはある程度お互いの存在を認識しているらしい。
チカがどうしているのかも気になるし、ミヅキさんとやらは落ち着いているのかも気になった。
しかしその質問は地雷だった様だ。
「貴方も僕のことを邪魔だって言うんだね」
そう答えたトワくんの目は笑っていなかった、というより据わっていた。
「いや、邪魔やとは言ってへんけど。嫌な気分にさせたんやったら謝るよ、ごめん」
「何が嫌だったのか理解しようともしないで軽々しく謝罪の言葉を口にするのはやめろ!」
「ごめん、初対面やしトワくんの気持ちはわからへん。でもよかったら何が嫌やったか教えてくれる?」
「そういう態度も不愉快だよ。貴方はどうして僕を傷付けようとするの!!」
こういうやりとりが暫く続いた。声を荒げ、顔を真っ赤にして怒鳴り散らすトワくん。
これは私が近くにいるのはよくないのかもしれない、と判断して距離を置くことにした。
正直なところ、一方的に罵倒され続けるのは精神的に疲れる。
「トワくんのことを邪魔やとは思ってないけど、私が何か言うて君が嫌な気分になるんやったら一緒におらん方がええかな。
どうしよう、でも10歳の子を一人でこんな場所に置いておく訳にも行かんしご両親に」
「お前も僕を否定するんだな!もういい、こんな穢れた世界には居たくない!!」
朝のマ○ドナルドに、一瞬にして静寂が訪れた。
徹夜明けっぽいお兄さんも、これからご出勤ぽいお姉さんも、皆が彼に注目している。
当然彼の向かいに座っている私にも視線が注がれる。
そんな気まずい空気をものともせずに、トワくんはおもむろに鞄から何かを取り出した。
ゴシックとかロリータとか、そういう感じの服の袖がひらひらと揺れ、
そこから覗いた手首に 銀色に光る何かを 滑らせた。
取り出したのが何か、と認識する暇も無い。正に一瞬の出来事だった。
彼が取り出したのはカッターだったようだ。
手首に血が滲むが深い傷には至らなかったらしく、何度も繰り返しカッターの刃を突き立てようとする。
「ちょっと、何してんの!」
思わず制止しようとするが、レースたっぷりの袖は結構掴み辛い。
そこにトワくんの抵抗が加わり、もう取り押さえることは不可能に近い。
呆然とする周囲の皆様、そして店員さん。
私も一緒に呆然としたいが、とりあえずは彼から刃物を奪わなければいけない。
こうなったら警察を呼ぶしかないのか、寧ろ誰かがもう呼んでそうだ。
甲高い悲鳴や低いどよめきが妙に遠くに感じられた。
唐突に彼女の体が力を失い、床の上に倒れ込んだ。
慌てて近寄って、脈や怪我の状態などを確かめる。
傷も深くはないし、意識を失っているだけのようだ。
けれどそのままにしておく訳にも行かず、
駆け寄って来てくれた店員さんのアドバイス通りに救急車を呼ぶことにした。
ほどなくして救急車が到着する。
意識を失い、ストレッチャーで車の中へ運ばれる彼女。
店員さんに謝っている間も、救急隊員の方の質問に答えている間も、
私の心の中は後悔の念で一杯だった。
目の前で人が、自らを傷付けたのだ。しかも私の言葉が原因だと言う。
気がつけば私は震えていた。せめて私に出来ることは、搬送される彼女に付きそうことだけだった。