私「乳がんですが、ステージ4でした」
精神科医「えっ 本当ですか?」
その日は4週間ぶりの精神科。
うつ病の薬と、入眠剤をもらいに行く日だった。
乳がんが判明した時、精神科医には紹介状が渡った。
乳がんなのは伝えていたが、
ステージがわかってからの精神科通院は初めてだった。
大変な患者を日々相手にしている精神科の担当医は、
普段めったなことでは動じないが、
ステージ4を告げると、
さすがに驚いた顔をしていた。
私「今まで以上に、
気分の落ち込みが大きくなるかと思いますが、
よろしくお願いします」
乳がんの検査〜判明してからの間、
私の精神状態は最悪まで落ちていた。
同居人の入院時期とも被っていたので、
同時に孤独にも苛まれた。
うつ病になっても落ちなかった食欲が、
まったく無くなったのもこの頃だ。
朝から晩まで、
何も食べなくても腹が減らない。
食べようとしても量が入らない。
強い不安感に襲われ、
天井が崩れて落ちてくるのではないかと、
部屋で眠ることすら怖くなった。
はたから見れば笑い話だが、
不安感が強くなると、
日常を送ることすら恐怖になってしまうのだ。
乳がんが判明したばかりで、
毎日がつらい、
こわい、
かなしい。
そんなどん底だった私の精神に、
当時受診した際の精神科医の一言が、
すっと届いた。
精神科医「でも、今わかってよかったのかもしれませんね」
それは本当にそうだった。
わからないままなら、
もっとひどいことになっていたかもしれない。
わかったからこそ、打てる手があるのだ。
あの不安真っ盛りの頃、
私はひたすら精神科医の言葉を思い返していた。
今わかってよかったのだ。
わからないより、
知らないままでいるより、
ずっといい。
結果的に私の乳がんはステージ4だったが、
あの時の精神科医の言葉で、
当時ラクになったことには間違いない。
私「まだ先の話ですが、
O県に引っ越すかもしれません」
精神科医「ああ、そうなんですか」
私「がんサバイバーの友人が住んでいるんです。
同居人もがんサバイバーだし、
2人よりは3人のほうが潰れにくいかと思いまして」
そう言うと、
ツボに入ったのか精神科医は声を上げて笑った。
精神科医「それはいいかもしれないですね」
ADHDの私と、
ASD気質の同居人が一緒に暮らしていると告げた時も同じことを言っていた。
弱い人間と毎日接しているこの精神科医は、
決して強くはない人間同士が支えあうという、
寓話が好きなのだろう。
別れ際、精神科医はぽつりと言った。
精神科医「でも、今わかってよかったのかもしれませんね」
先生、いつもそればっかりやん。
