私「ステージ4だったわ。頭抱えたわ」
友R「私も今頭抱えてる」
友Rは中学時代から、35年来の友達。
最後に会ったのはもう5年も前になる。
社交的でエネルギーの塊のRは、乳がんと子宮体がんを乗り越えた、シングルマザーのサバイバーでもある。
乳がんに関しては私より先輩なので、色々聞いていた矢先に私のステージ4が判明してしまった。
私「こんなことになって本当に申し訳ない」
R「行くわ」
私「え?」
R「週末行くわ」
私「いや私うつ病で午前中寝たきりだし、
何より遠いよ」
Rの住んでいるところと私の居住地は、飛行機と新幹線を乗り継いで3時間以上の距離がある。
仕事もある彼女にそこまでさせるのは、ステージ4といえどさすがに気が引けた。
R「いや行くわ」
本当に、来た。
飛行機にあわせて空港まで迎えに行くと、懐かしいRの姿がすぐに現れた。
5年ぶりというのに、普段通話アプリで話しているせいか、久しぶりという気が全くしない。
実家のような安心感。
Rの存在を一言で表すならそれである。
もっとも親とも20年以上前に死別した私には、もはや実家と呼べるものは存在しない。
もはやRの存在自体が我が実家と言っても差し支えがない。
私「本当に来た」
R「来たよ」
腕を広げた彼女の胸に飛びこみ、
感動の再会のハグ。
…………。
いや…………、
感動どころか気まずい。
Rと私は仲はいいが、そこまでウェットなつきあいじゃない。
二十代の頃は同じ天井を見てだべりながら、
『今上戸彩が「匿ってください」と現れたらどうするか』
など、世にもくだらない話をするような仲であった。
(チョイスに世代を感じる)
普段ハグなんかしたことはない。
乳がんステージ4とはいえ、いかにもわざとらしすぎる。
まあでも遠路はるばる来てくれたのだし、ハグくらいはオプションのうちだろう……。
私「顔見たら泣くかと思ったけど、
実家のような安心感が先に立ったわ」
R「私も泣くかと思ったけど、
そんなこともなかった。
てか、
ハグは余計だったな」
思ってても言うなよ…。
Rの予定は2泊3日の滞在である。
忙しいワーキングシンママが、貴重な週末を使ってわざわざ会いに来てくれたのである。
ハグは余計でも、ありがたくないわけがない。
私の家に向かう列車の中で、
Rはぽつりと言った。
R「あのハグは余計だったな…」
〜続き〜


