修士課程に入学してすぐ、就職活動というものが始まったわけだけれど、その当時はまだ研究を始めて1年経つか経たないか。学部の卒業論文程度しか経験していないのに、これから研究者として生きていくのか?それとも同じ業界で違う職種に就くのか?はたまた全く関係のない業界に行くのか?決めなければならなかった。

 

しかも、研究者として食べていくなら長期的に見たら博士号はほぼ必須と考えていいだろう。

でも、修士課程を出る時点で私は24歳。博士後期課程まで修了したら最短でも27歳無職女性が爆誕してしまう。いまどきこんなことを言うと怒られるかもしれないけれど、やはり女子たるもの、結婚を考えると最終学歴が博士は結婚しにくそうとか、もし気にしないでいてくれる相手がいても27歳で新卒となるといざ安心できるほどの経済的自立はいつになったらできるだろうとか、変な所をリアルに想像してしまったのを覚えている。。。。

逆に博士課程まで修了したら研究者として生きるしか道がないような気がしていた(今思えば、自由に選んでいいのにね)。

 

私の所属していた研究室は少し異質で、私の3個上の先輩から連続で全員博士課程に進学していた。だから余計に、研究をするなら進学が必須だと思っていた部分があった。そして、修士課程で出ていく先輩を見たことがなかったから、当然のように就職活動に対する理解も全くなかった。就活中も修論書きながらも日本全国の学会に参加しに行っていた。振り返ってみれば、色々なことと研究を両立することを学べたから今にも活きていると思えるようになったけど、当時は常に研究最優先で様々なことを我慢しないといけなかったから不満もたくさんあった。

 

色々考えた挙句、私は修士課程で一度大学を出て就職することを決めた。そして、大学の外で、営利活動として研究してみたいと思った。つまり、企業研究者である。平たく言うところの研究職。そして、分野としては基礎研究を選んだ。もちろんいずれは博士号取得も検討する予定だけど、それより先に社会という海に出てみたかった。

 

一般に、研究職の就職活動の倍率はかなり高いとされている。専門職だからだろうか?修士卒も、博士卒と同じ土俵で評価されるからだろうか?当時私が調べたところによると、倍率は平均して20~30倍程度、企業によっては50倍くらいと言われていた。

実際に就職してみて思うのは、思ったよりも研究員って多くないな、ということ。(予想よりも倍率が高いのか、それとも志望者が少ないのかは未だによくわからない。)

 

研究所に働いている人は全員研究者かもしれないけれど、実は中で細分化されていたりもする。実験を主に担当してくださる派遣の方や技術職の方。主に大学院卒で構成される研究職。基礎研究を世に出すための研究を進めてくれる後期研究者。実は、一番プライドが高いのって後期研究者だったりもする(笑)。基礎研究所の研究員はお互いの職種や階級、学歴を気にしないサイエンスベースな人が多い。同じ会社に一緒に入った後期研究所の同期にマウント取られるとそれはそれで不思議な気持ちになる。なので、私は基礎研究所の仲間といるときが一番楽だ。

ちなみに、一応他の業種の話もしておくと、本社でデスクワークしている子たちは一番キラキラしている。綺麗なオフィスカジュアルで昼食もオシャレな所で食べているとかなんとか。営業の子たちもエネルギッシュで明るくてガッツがある。礼儀正しい子も多くて、学部卒院卒の違いを気にして敬語を使ってくる子もいるけどタメで話そうと言うとすぐ打ち解けてくれる。各研究所の人間は先ほど述べた通り、基礎研究者が一番無頓着で、後期研究の子たちの方が色々と細やかな所があるように思う。派遣の方や各研究所の技術職の子たちは異様に話しやすくて、私はかなり気が合う人が多い。

おまけで言うと、自社に来ている派遣さんとはとても仲良くできるのに、なぜか大学の同期で派遣会社に登録している子とはなかなかうまくいかない。学歴までは一緒なのに正社員と派遣社員という違いが生まれるとうまくいかなくなるものなのだろうかと、少し寂しくなる。

 

研究職の就活は、恐らく普通の就活とは異なっていたと思う。確かによく言われるように情報戦ではあったけど、そもそもの情報量が少ないので他の業種ほど情報がないと死ぬような騒ぎではなかった。就活に命をかけたら内定を取れるというものでもなかった。

恐らく研究員の就職の特徴だと思うのが、「エントリーシートや一次面接の結果は研究所の採用判断には全く関係がない」ということ。あくまで研究員として欲しいかどうかなので、今までの研究実績や研究への向き合い方が一番重視されていた。サイエンスベースな議論ができる人かどうか。研究にどういう姿勢で取り組む人なのか。そういうところを見られていたと思う。

テストの点数は研究者としての良し悪し判断に関係なかった。大学のテストは単位が取れればいいと思っていたからずっとBとかCとかを取り続けていたので本当にありがたかった。

 

…理系?研究者?あるあるで言うと、「すぐn数は?とか言い出す」「細かい数字にこだわる」「〇等分に厳しい」「冗談までもが研究ベース(「細胞だったらコンタミしてるわ(笑)」とか、「いや、この血管採血しにくそうすぎない?(笑)」とか、「エラーバーでかすぎない?有意差つかないから外れ値除外したいんだが(笑)」みたいな)」。多分、多くの理系学生がクスッと笑える冗談のはず。ラボごとに培地の調製法が微妙に違うとか、継代の手順が少し違うとかね。

一度たまたますれ違った人たちが談笑しながら歩いていたので和やかだな~と思っていたら、「ミトコンドリアの活性化条件」についてガチの雑談していてちょっと驚いた。

 

長々と何を書いているのかよくわからなくなってきたけど、私は今、修士卒で研究職として働いているけれど、その選択に全く後悔はない。正しい選択だったと思う。これからもずっとこの業種で働いていくのかはわからない(会社の方針もあるだろうし)けど、少なくとも現状に大きな不満もなく仕事させてもらっている。多くの大学院生に言いたいのは、「研究しててお金もらえるって素晴らしい!」ということ。土日や深夜の実験が当たり前、ラボに長いこと滞在しているヤツほど偉いみたいな、大学院生独特の価値観は社会では普通じゃないから、数年の我慢だと思って頑張ってほしい。博士課程に進学した友達や留年した元同期からよく愚痴を聞くけど、あの環境が特殊であって慣れる必要はないと思って少し気楽になれたらいいなと思う。もしこの文章がアカデミアで研究していて辛い思いをしている人の目に留まることがあったら、もっと世界は広いよと伝えたい。当時の私が知らずに絶望していたからこそ、違う世界もあることを知って、少しでも楽になってくれたらいいな。大学院時代の愚痴は私もたくさんあるが、今回のテーマの「大学以外で研究者として生きるという選択をした私の率直な思い」とは少し趣旨が変わってくるのでまた別の機会に。

 

一口に研究者と言っても、雇用形態や研究にどの立場で関わるかは様々なので、研究が好きならこれからも携わっていけばいいし、もうやりきったとか研究はそんなに好きじゃないと思ったら違うことに挑戦してみればいい!人生で一番若いのは今日だから、何事も挑戦だといつか誰かが言っていた!

 

もず