今週のもう一本!「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」(22年) | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

映画界の大物プロデューサー、ハーベー・ワインスタインの女性スタッフや俳優に対する性的暴力を告発した2人の新聞記者。その記事は♯MeToo運動として社会に波及する。なんでもエンターテインメントにしてしまうアメリカだが、内輪の恥部を明かすこの件でも堂々と映画化してみせたのは拍手喝采。女性版『大統領の陰謀』(76年)とも言える今作は、ハリウッドの歴史にも残るであろう一種のターニングポイント的作品にもなるのではないか。と思いきや、先日発表されたアカデミー賞ノミネートではひとつも候補に挙がっていないというまさかの事態に(公開時期が対象外なのかと思ってしまった)。作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞などどれを取っても不思議ではないのに、なかったことにしようという旧体制的意識が働いているのだろうかと勘繰ってしまう。いずれにしても、映画の内容は最初から最後まで圧巻だった。ワインスタインに焦点を当てないのもかえって正解。記者の執念から次から次へと被害者の内なる叫びが表に出てくる過程がすさまじい。しかも2人とも家族があり、出産や子育てという現実の背景もきちんと描かれている。また、ホテルの廊下が映し出され、事件時の音声が聞こえてくる場面の生々しさといったらない。このホテルのすべての部屋で彼の行為がおこなわれていたのではないかと連想させる、まるで『シャイニング』(80年)のような恐怖演出だ。自分たちがいままで魅了されてきたミラマックスの作品にはすべてこんな背景があったのか。そう思うと複雑な気持ちにもなってくる。キャリー・マリガンは『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20年)に引き続き名演だし、ゾーイ・カザンも負けず劣らず素晴らしい。比較的長尺で淡々と描いているにもかかわらず、体感時間は非常に短い。年間ベスト級だけに、ノミネートなしは納得いかない。

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