巨匠キューブリック監督作でランバージャックマッチ!?「バリー・リンドン」P・ローチ | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

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巨匠スタンリー・キューブリック監督作品で2度出演を抜擢されたプロレスラーがいる。英国でもっとも有名なレスラーのひとりである“ボンバー”パット・ローチである。

 2メートル近い長身を誇るローチは、英国プロレス全盛時代を支えたヘビー級レスラー。1937年5月、イングランド中部バーミンガムで生まれ、60年にナショナル柔道選手権、62年にミッドランド柔道選手権に優勝しプロレス入り。69年2月に国際プロレス初来日を果たし、72年2月には新日本プロレスにも参戦した。当初は“ジュードー”“ビッグ”などがニックネームで、“ボンバー”と呼ばれるようになったのは83年にスタートした人気テレビドラマ『AUF WIEDERSEHEN,PET』(ドイツ語の英国北東部のスラングを合わせて「グッバイ・ダーリン」の意味)に出演するようになってからだ(この作品の“ボンバー”役で国民的人気を得ることとなる)。

 俳優活動の原点と言えるのが、キューブリック作品『時計じかけのオレンジ』(71年)へのノンクレジット出演だった。ここでローチはバーの用心棒役で登場。そして75年、おなじくキューブリックの名作『バリー・リンドン』で俳優としての本格デビューを果たす。

舞台は18世紀のヨーロッパ、野心旺盛な青年貴族バリー(ライアン・オニール)の出世と没落が描かれる。イギリス軍に入隊したばかりのバリーは訓練地で大柄な男トゥールと口論になり、“試合”で決着をつけることとなる。バリーと闘うトゥールこそがローチで、まさにハマり役。試合は兵士たちが2人を取り囲み、それがすなわちリングとなる。まさしくランバージャックデスマッチの様相で、上半身裸のバリーとトゥールが素手で殴り合うのだ(ちなみに、バリーはジョン・クイン大尉という人物とも決闘、“ビッグ”ジョン・クインと同名だが、もちろん偶然)。

試合前、レフェリーは「No biting, kicking,or scratching. The last standing gentleman is a winner」(噛みつき、蹴り、引っ掻きはなし、最後に立っていた者が勝者となる)とルールを説明し、闘いがスタートする。このシーンは当時の英国プロレスにソックリで、リングアナウンサーが「six five minute rounds, two falls, two submissions, or one knock out to decide the winner」(5分6ラウンド3本勝負。2回のフォール、2回のギブアップ、または1回のKOで試合を決します)とコールするのとまったく同じリズムであることが興味深い。

 ローチの出演はこの場面だけだが、台詞もあってインパクトも大きい。作品は全編これ絵画といった美しさで(映画史上最高の美しさかも)、そこに屈強なローチが入ってくるのだから印象に残るのも当然だろう(予告編にもローチ出演シーンが出てくる)。これを機に、ローチは屈強な大男の役柄を「インディ・ジョーンズ」シリーズをはじめ、数多くのメジャー作品で獲得するようになるのだ。

 筆者は90年代、ローチをバーミンガムに訪ねたことがある。大物レスラーにして大物俳優。にもかかわらず、そのときは閉まっていたジムを筆者のためにわざわざ開けてインタビューに応えてくれた。映画では悪役が大半ながらも、実際は、気は優しくて力持ちを地でいくような人物。オーディションを受けたという『スター・ウォーズ』(77年)でダースベイダー役を得ていたとしたら、その後のシリーズ展開はどうなっていただろうか?

パット・ローチとジョン・クイン