クイーンの楽曲を使用するレスラーたち マリー・アパッチェの場合 | プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

プロレスライター新井宏の「映画とプロレスPARTⅡ」

週刊プロレスモバイル連載「週モバロードショー~映画とプロレス~」延長戦!

  世界的ロックバンド、クイーンのリードボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)が大ヒットしている。ヒットの要因はいろいろ考えられるが、そのひとつとして『ラ・ラ・ランド』(16年)の余波により、ミュージカル、音楽映画が日本にも受け入れられる土壌が生まれたと考えられるのではなかろうか。『ラ・ラ・ランド』のあとには『グレイテスト・ショーマン』(17年)が予想外のヒットを飛ばし、今回の『ボヘミアン・ラプソディ』につながっているようにも思えるのだ(この流れから1221日に公開される『アリー/スター誕生』にも期待大。なにしろ主演レディ・ガガの名前はクイーンの『RADIO GA GA』からインスパイアされているのだから!)。それは、映画を超えたイベント感覚。すべてというわけではないが、話題作と呼ばれるような音楽映画には、ふだん劇場に足を運ばない層たちにも作品のよさが届き、相乗効果を生んでいるのだろう。

 

 もちろん、クイーンというバンドの認知度の高さも大きな要因のひとつである。ザ・ビートルズは別格としても、クイーンはジャンルを超越し誰でも一度は耳にしたことのある希有なバンド。彼らの楽曲は世界中のあらゆるスポーツイベントでかかりまくっている。

 

 プロレスも例外ではなく、個人的にはヨーロッパCWAのキャッチ・トーナメント最終戦でかかる『WE ARE THE CHAMPIONS』への思い入れが大きい。そのあとにはアバの『THANK YOU FOR THE MUSIC』が数ヶ月かけてヨーロッパを北上したツアーを締めくくる。CWAは21世紀に入りその役割を終えてしまったが、私にとってクイーン、アバの曲は古き良きヨーロッパマットを思い出させてくれる極上のバックグラウンドミュージックでもあるのだ。

 

 プロレスラーでクイーンの曲を入場テーマに使用するレスラーも数多くいる。日本では“ミスターデンジャー”松永光弘の『FLASH’S THEME(フラッシュのテーマ)』が有名。これはもともと、スーパーヒーロー大作『フラッシュ・ゴードン』(80年)のテーマ曲。しかし映画は大コケで、そのチープさからかえってカルト化してしまった。12年の大ヒットコメディ『テッド』では、いくつになっても大人になりきれない大人の象徴として描かれていたものである。クイーンの曲も作品同様にダサカッコいいのだが、ダサいとカッコいいの比率が映画と曲では対照的。カッコよさではクイーンの方に分があるのがおもしろい。『FLASH’S THEME』は、クイーンの名曲のなかでも特別に愛すべき異色曲である。

 

 また、『WE WILL ROCK YOU』を使うレスラーも世界中探せば何人もいるだろう。代表的なのはメキシコCMLLのウルティモ・ゲレーロ。新日本が毎年1月に開催するルチャリブレの祭典ファンタスティカマニアの常連とあって日本でもおなじみだ。この曲にあわせて両手を天高く突き上げるポーズも浸透している。

 

 CMLLのオポジションAAAにも、この曲で入場してくるレスラーがいる。日本ではスターダムで闘う“女子ルチャの重鎮”マリー・アパッチェだ。マリーがこの曲を使うようになったのは、17年5月に亡くなった父、グラン・アパッチェを受け継いだから。日本滞在中のマリーに、この曲について訊いてみた。

 

――いつから『WE WILL ROCK YOU』を使い始めたのですか。

「だいたい13年くらい前だと思います。誰が選曲したのかはわかりませんが、AAAでパパ(グラン・アパッチェ)が使うようになったので、娘の私もこの曲でリングに上がるようになりました。最初はパパだけでしたけど、しだいにアパッチェ・ファミリーを象徴するような曲になりましたね」

――『WE WILL ROCK YOU』がかかればアパッチェ・ファミリーの登場だと。

「その通りです。そのイメージが大きいですね。曲がかかると盛り上がりますよ」

――CMLLではウルティモ・ゲレーロが使っていますが、意識はしますか。

「知ってはいますけど、とくに意識することはないですね」

――クイーンの曲は好きですか?

「正直、あまり好きではありません(苦笑)。ロックじたいが私の趣味ではないので。あくまでも入場テーマ曲として使っています。でもテーマ曲としての愛着はありますよ。何度もパパと一緒に入場した思い出があるし、パパが使ってきたものを受け継いでいますからね。ルチャリブレのアパッチェ・ファミリーは、この曲とともにこれからもつづいていくんです」

(C) 2018 Twentieth Century Fox

マリー・アパッチェ(右)。娘のナツミもプロレスラーに