~前回までのあらすじ~
多大な正義感とほんの少しの遊び心から
詐欺業者ナベと激闘を始めたムーブ・スタフー。
ひとまず前哨戦を終え、ナベ(詐欺業者呼称)を信用させる事に成功したスタフーは
次なるステップを目指して一時休戦をする。
数々の弱者から金をだまし取り、
それをせせら笑う悪に、スタフーは一矢報いる事ができるのか?
戦え!ムーブスタフー!
今こそ口先三寸を生かすときだ!!
次回!「終幕」
乞うご期待!!
第三章(終章)「終幕」
接続部が錆びているのか、
以上に固くなった蛇口を捻る。
勢い余って滝のごとき勢いで吹き出す水を
スタフーは慌てて止めた。
正面の鏡に映る自分の顔を眺めながら、
スタフーは考えた。
この話にふさわしいオチとは何か。
どうすれば最小限の労力で最大限の不快を生み出す事ができるのか。(ナベのね)
普段くだらない事しか考えていないスタフーの脳ではあったが、
こういう時には役に立つ。
とにかく手っ取り早く金を得たいと考えている悪徳業者に
最大限の労力で皆無の利益と最大限の徒労を味合わせるにはどうするか。
とはいえ、スタフーには時間がなかった。
電話を切ってから五分。残り十分でそれなりの段取りを組まなければならないのだから。
・・・とりあえず外にいるという雰囲気を作り出さねばならない。
電話をかけている場所は外だという事になっている。
スタフーは一応今、銀行のATMに向かっている事になっているのだから。
電話をかけるとき、多少なりともバックに街中を思わせるBGMが必要だろう。
あまりにも無音だと家の中にいることがばれてしまう
(当然ながらスタフーは家から出るつもりはない)
もう一点、ナベが教えてくれた住所周辺の地図を把握する必要が有る。
いかにも歩きながら場所を探している体でなければならない。
インターネットで地図だけでも出しておくか。
BGMは・・・そうだな、所々に自分でそれっぽいのをいれることにしよう(笑)
なんだか面白そうだし。
別の楽しみを見つけてなんだか楽しくなり、
彼女との初デート前日の思春期の少年のようなはにかみを浮かべていると、
そのタイミングを計ったかのように携帯電話が叫びだした。
相手は・・・見るまでもない。
ナベである。
「さて、最終幕のはじまりだ。」
映画のニヒルな主人公を気取ったスタフーは、
そうつぶやいてから携帯電話を手に取った。
フー。フー。
携帯電話に息を吹きかける。
外にいる事を演出するために、風を表現してみました(笑)
「はぁ、はぁ・・・も、もしもしぃ」
またしても小芝居である。
急いで振込みを行わなければならないという気概を演出するため、
いかにも走ってきたかのようなアクションでスタフーは話し出した。
「もしもし」
ナベは少し明るい接客業的な口調で話し出した。
悪徳業者め。金を払うとわかった瞬間丁寧になりやがる。
腹立たしい事だ。
・・・しかし最後に笑うのはこの俺だ!
スタフーが、別にたいした苦労もしていないくせに
(ちなみにこの時スタフーはソファに座ってコーヒーを飲んでいた)
さんざん苦労してきて最後に逆転してやるぜというようなスタンスになっている事は
この際お許し頂きたい。
「銀行につきましたか?」
ナベはいきなり切り返した。世間知らずな奴め。
そんなに金が欲しいか。
「いやぁそれが・・ここがどこだかいまいちわからなくて。」
ナベにとって八王子はスタフーの地元であることになっているのだから、
普通に考えればそれはおかしいと気づきそうなものだが、
ナベは金で盲目している。気付くはずもない。
「近くに何かお店とか有りますか?」
ナベはスタフーの現在位置を確認するため訪ねた。
すぐさまスタフーはネットで地図を確認した。
駅から100メートルくらい。このコンビニがいいだろう。
「ちかくにファミリーマートがありますね」
ナベはすかさず
「ファミマのATMでもいいですよ」
私もすかさず
「ファミリーマートからは僕のカードは振り込めないんですよ」
そんな訳はないが言いくるめられたようだ。
やはりアホだな。
ちなみに地図上の八王子駅周辺には少なくとも3つのファミマがある。
ナベもインターネットで地図を見ているから、それはわかるはずである。
言うまでもない事だがここではあえて一番多いコンビニをチョイスし
ナベにより手間をかけさせようという作戦である。
当然、ナベは尋ね返す。
「えーーーと、ファミリーマートは何個かあるみたいなんで・・・
近くに他に特徴的な建物はありますか?」
「えーーと」
ここは腕の見せ所である。スタフーは答える。
「『スナック ギサメコリフ』」があります。
・・・あるわけがない。
そしてそんなものがヤフーなどの地図で表示される訳もない。
っていうか特徴的な建物だけど、そういう意味じゃねぇよ。
そんな不満をナベが持った事は間違いないが、
ナベはどうやら言葉を飲み込んでくれたようだ。金のために。
(ちなみに遊び心で作ったこの店名を逆から読んでみる頭もなかったようだが)
「もうちょっと、大きい建物で・・○ゴウとか東○とか見えませんか?」
テキトーに地図をみて、ダ○エーを発見。そろそろ許してやろう。
「あー、近くにダ○エーがありますね。」
我が家のタンスを床の上でガタンガタンさせながら答える。
ちなみに電車の音を演出している。
「あ、ダ○エーですか!それなら近くにり○な銀行が有りますよ!」
・・・やっと本題に進めそうで大分嬉しそうだ。
まぁそれも報われないんだけどね!
「ええと・・・コンビニを右手にして、角を曲がってください。」
「右手右手・・・ええぇと、お箸を持つ方ですよね?」
意味もないやり取りを繰り返す。
さすがにイライラしてきた様子。
「り○な銀行見当たらないんですけど・・・」
「そんなはずないですよ!曲がったらすぐ有るはずなんですから!」
頭悪いなコイツ、と今にも言い出しそうな口調で声を荒げるナベ。お前がな。
「いや、曲がりましたよ、右手に。今目の前には○○があります」
「いや、そっちは左ですよ!逆です!逆!」
「あ、そうなんですか?お箸を持つ方に曲がったんですけど・・・。
あ、そうか、僕左利きだからか(笑)」
我ながら飽きれるほどにバカにした台詞だ。
いよいよナベがキレだした。
今更ながらうっすらと疑惑をもちだしたらしい。
「あなた本当に払う気があるんですか!?」
「もちろんありますよ。何言ってるんですか?わざわざ外にまで来たのに。」
(ちなみにこの時スタフーは家の中でベットに横たわり、鼻くそをほじっている。)
人ごみを演出するためにTVで適当なチャンネルをかけ、
音を大きくしながら、スタフーはぬけぬけと答えた。
ナベはしばらく沈黙した後、とにかく逆方向のり○な銀行へ行く様、促した。
・・・仕方ない。そろそろ行ってやるとするか。(行ってないけど)
ちなみにこの間諸々のやり取りを省いてはいるが、
20分ほど道がわからない等のやり取りをしている。
普通の人間でも怒るところだ。
ましてや気が短いであろうチンピラである。
さぞかし事務所の灰皿は山盛りに、
貧乏揺すりはマグニチュード7.0を超える破壊力になっている事だろう。しめしめ。
さて一方のスタフーの頭の中では空想上のラピュタ(り○な銀行)に
到着する頃である。
「いらっしゃいませー」
電話から口を離し、鼻をつまんでラピュタのロボット兵(銀行員)を演出する。
・・・しまった。
先ほどの出川○郎のモノマネとかぶってしまったか。
しかしナベは気にするそぶりもなくATMへと誘導する。
事実だから仕方ないけど、普通の詐欺業者なら銀行は避けそうなものである。
昼間の時間は。銀行員がいるときに片手に携帯もって振込に来た人を見かけたら、
止められる可能性が高いだろう。こんなご時世だし。
「ATMの前に来ましたか?」
「ええ。来ました。今ちょうどATMの前です。」
(ちなみにスタフーはこの時、本日2杯目のカプチーノをソファで楽しんでいる)
「では、今から言うところに振り込んでください。」
「振り込み方がわからないんですけど」
・・・さっき説明したじゃないですか。
そうぼやかれながらも、また1から説明を始めてくれるナベ。
いい奴だ。こんな形で出会わなかったら友達になれたかもしれないのに。
ちなみに説明が始まってからスタフーは電話を机の上に置き、
カプチーノを片手にタバコを吹かしていたが。
・・・そろそろ終わった頃だろうか。
「もしもし、すいません。電波が悪くて。わかりました。じゃあ振り込んでみます。」
そうですか。わかりました。
ナベはほっとした様子でため息に近い声色をもらした。
「○○銀行の・・・
「ふむふむ」(聞いていない)
「最後に確定ボタンを押せば完了なんで、振り込んだら教えてくださいね。
こっちでも確認できますから。」
便利な世の中になったものだ。その場で振込確認ができるとは。
ただ振込先の身元が分からないのはどうだろう。
安全のためにその辺を強化して頂きたいものである。
・・・などと、先の見えない日本の犯罪社会について憂いているのはいいのだが、
そろそろ決着をつけなければなるまい。最後に最高にイラつかせて、この宴の締めとしよう。
「あのぉ」
「はい、どうしました?」
スタフーは泣きそうな声(フリ)で言い放つ。
「やっぱり払えないですう(笑)」
ナベは驚愕である。
「えぇ!!今頃何言ってるんですか!」
「だって40まんですよぉ(さりげなく値切っているが気付かない)
そんな大金払ったら僕生きて行けないじゃないですかぁ」
ナベは半ギレ気味で声をさらに荒げる。
「そんな事言っても使ったものは払って頂かないと!!
本当なら警察に言ってもおかしくないところなんですよ!!」
(貴様が警察に逝け)
「だ、だってそんな急に30万円(さらに値切るが気付かない)出せなんて言われてもぉ」
「いや、急にってさっき散々お話したでしょ!本当に何言ってるんですか!」
ナベはいよいよ脅し口調になってくる。さらにからかってみよう(笑)
「今月の家賃分とかあるんですよぉ。20万も支払ったらなくなっちゃいますよぉ(半泣」
「いやいやそれでも買ったものは払うのが常識ですよ!!それに50万円ですからね!(ここで気付きやがった)」
泣き問答を続けるナベとスタフー。そろそろだな。
「だって払える訳ないじゃないですか。」
スタフーは急に声色を変えた。
例えるなら10年間つき合った夫婦の片割れが離婚を決意した瞬間のような、
冬の湿度の一切ない氷点下ギリギリの風のような冷たい声で。
「詐欺業者なんかに。」
「・・・・・・」
一瞬二人の会話が止まる。
この間実質せいぜい10秒にも満たない時間だったろうが・・
スタフーにも、もちろんナベにも永遠に近いような体感で時が凍り付いた。
「・・・え?」
ナベは一瞬状況が把握できなかったようである。
聞き取れないはずもないほどしっかりした口調で言い放った。
間違いなく聞こえている。
「聞こえませんでしたか?詐欺業者に払う金など、1ピコグラムも持ち合わせておりません。」
ナベは又黙り込む。返す言葉が見つからないのだろう。無理もない。
最初から払わないと言っていたら、間違いなく脅しにかかっただろう。(まぁ脅すだけだろうけど)
今まで散々協力的だった男がいきなり手のひらを翻す。
・・・ブルータスお前もか。
もしくは本能寺から見ゆるは桔梗の旗、といった所だろうか。
しばらく間をおいて、ナベはようやく我にかえったらしい。
ヤクザ屋さん的な本来の姿を表した。
「アンタなめてんの?
使ったもんを払わないってことは犯罪だよ。犯罪!
そっちがそのつもりならコッチもそれなりの方法で回収するけど、それでいいんだね?」
やっと本性を現しやがったな。そっちの方が悪の組織っぽくて好きだよ、ナベ。
スタフーは聞き返した。
「へぇ、それなりの方法ってのは!?」
「家に回収員を向かわせる。何としてでも回収できる様に毎日行かせるから。」
「・・・ほう。俺の住所がわかるってことかな?」
「それはこれから調べればわかる。」
「それは怖いねえ。怖すぎて涙がでらぁ(笑)」
八王子じゃないからね、ナベ。
ナベ再び沈黙。脅しが通じないバカも珍しいらしい。
ナベは捨てゼリフを吐く。
「・・・後悔しますよ(なぜいきなりまた敬語?)」
「そうかもしれませんねぇ。少なくともこの2時間ほど無駄な時間を使った事に対しては(笑)」
「あ、ちなみに・・・自分銀行にいる事になってるけど、家から出てませんから(笑)
そして貯金額ゼロですから。」
ナベ再び沈黙。
「あ、でもやっぱり悪いんでお金払いますよ。」
ナベはやっぱり最後までナベで、聞き返してくる。
「いくらですか?」
・・・十秒ほど間を置いて、それはもう絞り出すような声でスタフーは答えた。
「・・・十円でよかったら!!」
・・・ガチャリ。
そこで電話は切れた。
そして2度とかかってくる事はなかった。
うむ、統計約2時間の通話。
1分10円だとしても約1200円と2時間分の労力の消費を勝ち取った訳だ。
よくやった、俺。
そしていい暇つぶしになりました。
・・・ありがとう、ナベ。
あなたでなければこうも引っ張れなかっただろう。
ありがとうナベ。
あなたでなければこうも上手く行かなかっただろう。
・・ありがとうナベ。
スタフーは心の中で何度も復唱した。
心からの感謝と達成感を得て、
スタフーはまたベットに潜り込んだ。
さて、今日は休日である。
これからどう時間を使おうと自由だが・・・
外に出かけてもいい。
家で遊んでもいい。
選択肢は無限大。
まあ・・・
とりあえず眠る事にしようか。
そうしてスタフーはまた深い眠りについた。
またいつか起こるであろう戦いに備えて・・・・
完
※あとがき
まず、最後まで読んでい頂いた方に心から御礼申し上げたい。
長い間おつき合い頂いてありがとうございました。
最終章だけ以上に更新が遅れた事につきまして、本当に申し訳有りません。
12月から仕事の方が忙しくなり、こちらに時間が割けませんでした。
これからは気をつけます。(え?べつにいい?)
言うまでもない事ですが、この物語はノンフィクションです。
ただし、実際にやるのはおススメできません(笑)
業者によっては(ごく稀に)住所や名前ぐらいまで割り出してくるかたもいらっしゃいます。
家まで来たところで向こうにあまりメリットはないのですが、
腹いせ的に来るかもしれません。
今回のケースでは、きっと本業を真似た素人さんだったのだと思われます。
誰もやらないと思いますが、詐欺業者には基本は無視で対応がよろしいかと。
この日記を見るとスタフーはとっても性格の悪い人に見えますが、
普段はこんなことはしません、いや、ほんとに。いや、本当に(笑)
これもノンフィクションの話で、スタフーの友人が数ヶ月前に詐欺にひっかかり、
何ヶ月とかけて貯金してきた財産をほとんど盗られてしまい、
泣いて相談してきたという事実があってこそ、スタフーはこんな行動に出たのです。
警察にいったり、だまし取った業者と散々すったもんだしたりしましたが、
一度振り込んだお金を取り戻すのはどうやら本当に難しいらしいです。
嘆かわしい事です。
まぁありきたりな方法に引っかかる方が悪いと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
スタフーはだます方が悪いに決まっていると考えております。
皆さんも詐欺には気をつけましょう。
人を信じるのが美徳とされるとは言っても、
やはり大切な人を守るためにも、最低限のチェックは怠らぬ様、
スタフーも気をつける次第です。
それではまた会う日まで。御機嫌よう。