[由来]

多感な少年時代に「ブレードランナー」をはじめとする、いわゆる〝ディストピア映画(独裁者や機械などに支配された反理想郷的な未来社会を描いた映画)〟を無数に鑑賞し、その暗くも魅惑的な世界観に心酔した中2病気質の男が、ある野望を胸に国会議員となった。その野望とは、自らが行政府のトップである総理大臣となり、その権力を駆使して憧れのディストピア社会を現実のものにするという突拍子のないものであったが、彼に宿った純粋な中2病スピリッツのなせる技か、またたく間に政界でのし上がると、とうとう内閣総理大臣に就任。さっそく一癖も二癖もある面々を集めて閣僚に任命すると、漫画などによくある〝闇の内閣〟っぽいノリで「ディストピア内閣」の組閣をおごそかに宣言するのだった。

 

[足跡]

かくして夢にまでみた暗黒未来社会の実現に向けての第一歩を踏み出した「ディストピア内閣」総理は閣僚たちを召集すると、“ディストピアっぽい政策”といえばどんなものが考えられるかについて議論を戦わせたところ、ひとまず以下のような取り組みが実施されることとなった。まず、ディストピアといえば常に酸性雨が降り注ぐ悪天候ぶりは欠かせないということで、我が国の持てる科学技術を駆使した人工降雨装置の開発を推進した。この結果、狙い通り都市部に常時雨を降らせることには失敗したものの、その副産物として雨の少ない時期にも安定して農作物を栽培する技術が発展することとなり、野菜などの価格安定化の面でも一定の評価を獲得した。また、ひところ話題となったコオロギなどの昆虫を原料としたバイオフードを研究開発して、これを原料が虫であることを伏せたまま貧困家庭に配布することでディストピアならではの政府による陰謀感を演出しようとした。ところが、配布が始まってみるとこのバイオフードが意外と好評だったうえ、食糧難の途上国にその製造技術を無償で供与したため相手国から非常に感謝されるというおまけまでついたのだった。こうしてディストピア実現のための政策がことごとく想定外の方向に進んだことに焦った総理は、管理社会といえば政府による厳しい検閲と統制は外せないという結論に至り、ついに政権の切り札とも言える「コタツ警察」の創設を宣言した。この「コタツ警察」とは、季節が春から夏に移り変わる4〜5月になってもコタツを片付けない家庭を住民同士の密告によって炙り出し逮捕すると、莫大な罰金を課すと共に過酷な矯正施設に収容するという恐怖の組織であった。しかし、この「コタツ警察」の活躍によって無駄に浪費されていた電気エネルギーが削減されたため、エコロジーの観点からも「ディストピア内閣」はまたしても高評価を得ることとなった。このように政策を実施すればするほど最終目標であるディストピアの実現からは遠のく結果となった「ディストピア内閣」だったが、運さえ良けれは独裁政治は必ずしも悪政にはならないという事実を証明した稀有な政権として歴史に名を残すこととなった。