※メメントモリ:「死を想え」という意味をもつラテン語の言葉。常に死を意識することで今を大切に生きろ、という教え。

 

[由来]

齢(よわい)80歳の総理を筆頭に、閣僚たちの平均年齢が78歳という前代未聞の超高齢内閣が誕生。まさに高齢化社会の写し鏡ともいえるこの内閣、発足当初は国民たちを大いに不安にさせたが、フタを開ければ蓄積された政治家としてのキャリアや自分に都合の悪いことはすぐに忘れる老人特有の切替の速さ(というか、物忘れ)、生い先短く失うものも少ない総理や閣僚たちの気楽な精神状態などが功を奏したのか、意外なほど国民からの高評価を勝ち取り、順調な政権運営を果たすのだった。また、「死について常日頃から深く考察することは、今日をより良く生きることにつながる」という思想をバックボーンとして、総理自ら積極的に幽霊の実在証明や死後の世界の研究を進めたことから気づいてみれば「メメントモリ内閣」と呼ばれ、やがて訪れる死に怯えるだけだった国民たちの胸に小さな希望の光をともしたのだった。

 

[足跡]

ここで「メメントモリ内閣」の基本姿勢についてもう少し掘り下げてみよう。当該内閣とその総理が死後の世界の証明にこだわったのは、“人間死んだら全て終わり”と思い込んで無気力になった国民に“ひょっとして、死んでもワンチャンあるんじゃね?”という思想のパラダイムシフトを起こさせることで従来の古い死生観をアップデートし、閉塞感漂う社会に風穴を開けて国力アップを成し遂げんがためのことだった。また、何もこういったオカルトめいた取り組みだけでなく、年金、社会保険、公的扶助などによる社会保障や就労保障まで、老人福祉の王道ともいうべきサービス全般の見直しや充実にも力を入れた。さらに、先に述べた老人特有の“物忘れ”が良い方向に作用した例として、国民に給付金を支給したことを忘れてうっかり2 回も現金を支給するというミスを犯したが、もちろんこれに気づいた国民たちが示し合わせてお口にチャックをしたことで、総理は総理で「いいことをした」という充実感&満足感を、国民は国民で思いがけずビッグなボーナスを手にして政権への好感度を高めるというウインウインな状況を偶発させる結果となった。そんなある日、国会での審議中にそれまで元気に質疑応答に臨んでいた総理が急に静かになったので、そばにいた閣僚たちが確認したところ、なんとまさかの死亡確認。この国会審議中に総理が急死するという我が国始まって以来の珍事の後、総理が万一の場合に備えて用意していた国民へのラストメッセージ動画が公開された。内閣府ホームページ上にリリースされた問題の動画において総理は「必死に働いた1日の終わりに心地よい眠りが訪れるように、一生懸命生きた人生の最後はやすらかなものです。それでは国民の皆さん、来世でまたお会いしましょう!」というごく簡潔ながら不思議と見るものの胸にしみるものであった。そして、残された国民たちは時折そんな総理の姿と言葉を思い出しては彼が旅立った死後の世界に想いをはせ、明日からの日1日を大切に生きようと心に誓うのであった。