[由来]

今や我が国が世界に誇るパワーコンテンツにまで成長を遂げた感のあるアニメーション・カルチャー。その黎明期に物心をついて以来、常にアニメと共に歩み、アニメと共に成長してきた男がアニメの超展開よろしく国会議員になると、あろうことか内閣総理大臣に就任した。こうして誕生した新内閣は総理を筆頭に閣僚の全員がいずれ劣らぬ古参のアニオタたちで構成されただけでなく、アニメーターの待遇改善アニメ制作会社を対象とした税制優遇などにより我が国のお家芸ともいえるアニメ産業を世界の舞台で他国の追随を許さないレベルに超強化しようとするなど、露骨な“アニメ極振り”の姿勢が目立った。一方、アニメ好きというだけで白眼視されたかつての暗黒時代が嘘のようにアニメが市民権を得た現代ならではの反応として、国民の大多数がそんな内閣の方針を受け入れただけでなく「アニオタ内閣」の愛称を与えてこの新内閣の躍進を歓迎するのであった。

 

[足跡]

この国民たちのバックアップを追い風とし、総理自らが音頭をとってプロジェクトチームを発足させると、国内でもトップクラスのアニメーション制作スタジオや新進気鋭のアニメ監督たちを口説き落として海外マーケットでの展開も視野に入れたアニメーション超大作を量産。この、いわゆる“覇権アニメ”を武器に文字通り世界のカルチャーシーンの覇権を握り、いずれは国際社会での発言力を高めようという壮大な世界戦略を打ち出した。また、現在の我が国にとって本当に必要と思われる政策に絞って的確に予算を配分するなど、春夏秋冬各シーズンに放映される無数の新作アニメの中から限られた時間の中で視聴可能なタイトルを取捨選択しなければならないアニオタならではの特殊スキルをその政権運営に活かしてみせるのだった。こうして海外においては“クール・ジャパン”を超えた“ベリークール・ジャパン”と称されるほど高評価を得た「アニオタ内閣」であったが、国内政治の舞台ではまだまだ当該内閣をイロモノ政権扱いする議員も多かった。ある時、通常国会の審議の場において「一国の長である総理がアニオタなどと、恥ずかしいとは思わないのですか!」という旧態依然とした苦言を呈した野党議員がいたが、これに対して総理は「あなたはアニオタの気持ちを全然まるで分かっていない! アニメを見る時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで…。謝れ! 今すぐアニメに謝れ!」アニメに対する熱い想いを爆発させたが、この一幕は一般国民の中に潜むサイレント・マジョリティといえるアニオタ国民たちの溜飲をも大いに下げることとなった。やがて月日が流れ、この「アニオタ内閣」のことを憶えている国民もめっきり数を減らしたが、その後任期満了と共に政界を去り、静かな最後を迎えた総理が眠る墓地の墓石に刻まれた墓碑銘「NO ANIMATION,NO LIFE」は、いつまでも変わることなく我が国のあるべき姿、進むべき道を示し続けるのだった。