[由来]

西暦203×年、先進国を中心とする世界の国々で急速な進化を遂げたAIテクノロジーは、政治、経済、教育、文化に至るまで今や社会の隅々にまで浸透し、まさに国民生活の根幹を成す存在となっていた。また、そんな動きと歩調を合わせるように、いわゆる人型ロボット技術も長足の進歩を見せていた。そんな社会背景の中、生まれるべくして生まれた新世代の内閣が、あたかも未来の製造工場から飛び出すようにガシャーンと誕生総理を筆頭に16人の閣僚全員が最新型高性能AI搭載ロボットで構成されたこの内閣、誰が呼んだか「メカニカル内閣」の理想国家運営のための熱き戦いの日々が今はじまろうとしていた。

 

[足跡]

ロボットの社会進出を快く思わない旧世代の国民たちの支持をなかなか得られなかったこともあり、発足当初こそ政権運営に苦労する場面が多く見られた「メカニカル内閣」だったが、昼夜を問わず国会での審議を続けつつ山積された諸問題への対応にあたる総理やメカ閣僚たちの疲れ知らずの姿を見るにつけ、徐々に国民の心に巣くったメカ不審も和らいでいくのだった。特に、総理に搭載された高性能AIならではの高度な情報分析力や的確な予測力により巨額の年金運用益を出したり国家予算の無駄を高速で計算・スリム化することで政府の長年の懸案であった財政の健全化に成功したことに加え、川で溺れる子猫を総理自らが自慢の飛行能力を活かして救助したりといった、生身の人間では到底不可能な縦横無尽の大活躍を目の当たりにさせられては流石の反対派もその実力を認めざるをえないのであった。こうしてその政権運営もようやく軌道に乗ったかと思われた矢先、突如として稼働中の原発が炉心溶解(メルトダウン)の一歩手前の危険な状態に陥るという大事故が勃発。この未曾有のピンチに国会での審議を中断してスクランブル発進した「メカニカル内閣」総理は、放射線の影響で人間では近づくことも不可能な事故現場に単身乗り込むと、事故の原因が固く閉められた巨大なバルブハンドルにあることを突き止めるのだった。「コノバルブヲ開放スレバ、メルトダウンヲトメラレル確率ハ95パーセント…」そんなAIの判断により早速バルブを回そうと試みた総理だったが、突然その頭の中に「POWER DOWN」のメッセージと警告アラームが鳴り響いた。実は、高温の事故現場で長時間活動を続けたため、総理のメカニカルボディが活動限界を迎えていたのだ。「モハヤコレマデ…」薄れゆく意識と共に総理がその場に崩れ落ちようとするまさにその時、その背中を支えるかのように多くの手が伸ばされ、「アキラメルナ!」という力強い合成音が事故現場に鳴り響いた。この言葉に励まされるように意識を取り戻した総理が頭を上げると、そこには遅れて到着した16人のメカニカル閣僚たちの勇姿があった。かくして復活した総理と閣僚たちは全員で問題のバルブに手をかけると、「オレガ、オレタチガ、メカニカル内閣ダ〜!」という絶叫と共に見事バルブを開放することに成功した。こうしてわが国はかろうじてこの危機を脱出したが、大きすぎる代償として総理はじめ閣僚全員がその機能を停止。その夜、その悲報を聞いた国民の多くが見上げた夜空の星々の中に在りし日の総理と閣僚たちの笑顔を幻視すると、「無茶しやがって…」とのつぶやきと共に「メカニカル内閣」の終焉を惜しんだのであった。