[由来]

自他共に認める重度の「歴史オタ」として知られる某与党有力議員には、長年温め続けてきたある夢があった。国会議員になる遥か以前より密かに抱き続けてきたその夢とは、将来この国のトップとも言える立場に立ったあかつきには、江戸時代の役人の正装である“ちょんまげ&裃(かみしも)”スタイルにて国会に登壇して、今や完全に失われた感のある我が国の政(まつりごと)の原点に立ち返った政治の復活を高らかに宣言するというものだった。そして遂にその夢が叶い、内閣総理大臣となったちょんまげ頭の彼が国会のスポットライトの下にその姿を現した時、国民はこの新しくもどこか懐かしい新政権の誕生を祝うかのように「ちょんまげ内閣」の名を与え、これから目の当たりにすることになるであろう異次元の政治体験に胸を踊らせるのであった。

 

[足跡]

有名な「米百俵の精神」「五箇条の御誓文」といった歴史上の名政策から、地方の名君と呼ばれた大名が行なった知る人ぞ知る取り組みまで、「歴史オタ」としての持ち味を存分に活かすかのように過去の政策の数々に着目した「ちょんまげ内閣」総理は、これらのエッセンスを現代の状況に合わせてリブートするという独特の政治スタンスで目覚ましい成果を上げ始めるのだった。また、古き良き時代の象徴とも言える“ちょんまげ”に並並ならぬ執着心を見せる総理は、閣僚全員に自分と同じ“ちょんまげ&裃(かみしも)”姿を強要。さらにその姿での国会への登壇を義務付けた。このように“ちょんまげ”に政権のアイデンティティを色濃く反映させようという総理のスタイルは各国要人との会談の場などにおいても変わることはなかったが、そんな総理の姿を目にした各国の元首たちには「OH〜ジャパニーズプライムミニスターノヘアスタイル、ファンタスティック!」といった具合に軒並み好評を博し各国との友好関係を高めることに成功した。これに気をよくした総理はイギリスの法廷では弁護士や判事がカツラを被る伝統があることを引き合いに出して、我が国の裁判においても関係者に“ちょんまげ”姿にて出廷することを突如提言。国民はおろか総理周辺の関係者たちにとってもまさに寝耳に水とも言えるこの発言、実は大の時代劇マニアでもある総理が大ファンである「大岡越前」や「遠山の金さん」のクライマックスシーンを現実に再現するという野望に基づくものだったが、行政の長たる総理が司法のあり方に口出しするという壮絶な越権行為となるこの暴挙が、民主主義の基本とも言える三権分立の観点からも見過ごされるはずもなく、たちまち野党や国民から嵐のようなバッシングを受けることとなった。この緊急事態に総理は「や〜、メンゴ、メンゴ、ちょっと調子にのりすぎたでござる。許してちょんまげ!」などと、ここぞとばかりにある意味この内閣らしいといえばらしいベタな謝罪コメントを発表したが当然許される道理もなく、自慢の“ちょんまげ”と同様に遠い歴史の彼方に姿を消す運命を辿るのであった。