[由来]

ずんぐりむっくりの三頭身と愛嬌のある顔立ちに加え、トレードマークとも言える寝癖頭も印象的なひとりの国会議員がそれなりの紆余曲折を経て気づいてみれば内閣総理大臣に就任。悪代官のようなルックスがデフォルト化した一般的な我が国の政治家像とはかけ離れた、いわば“天然のゆるキャラ”ともいえるその風貌だけでなく、国民や記者団に向けてたどたどしくも飾らない自分の言葉で話しかけるその様子も見る者を和ませた。また、総理が任命した閣僚たちの全員が総理に勝るとも劣らない愛されキャラ揃いだったため、誰が言うともなく使いはじめた「癒し系内閣」の愛称が定着したのであった。

 

 

[足跡]

そんな総理や閣僚たちのユルユルな風貌やふるまいにふさわしく、当該内閣の施政方針は極めてテキトーな印象を拭えないものであったため、国家としての統制力の弱さを半ばからかい、半ば批判する意味で、国民やマスコミから「ガバガバガバナンス」と揶揄される場面も多かった。これなどは一歩間違えば国民たちが総理を蔑んでいるようにも見えなくもなかったが、その根底には稀代の癒し系キャラである総理をはじめとする閣僚たちへの確かな愛が感じられたため、なんとなく容認された空気のまま政権運営は続けられたのだった。こうして目立った功績もあげない代わりに総理や主要閣僚たちにスキャンダルも浮上しないまま常に高水準の支持率を維持した「癒し系内閣」は、アロマやマッサージから全国に点在するヒーリングスポットの紹介などまでをまとめた「癒しのある暮らしのためのガイドライン」(厚生労働省監修)をリリース。さらに世界に類を見ないキャラクター大国としてのわが国の面目躍如ともいえる国家的プロジェクトとして「究極のゆるキャラ」の創造を目論むのだった。このような総理の人気ぶりから誰もがこの内閣が長期政権を築くことを信じて疑わなかったが、野党第一党の党首として総理を上回るキャラクターの持ち主が現れたことから事態は一変。あれだけ国民に愛されたはずの総理はその支持率を急速に下げるとすっかり求心力を失い、まさかの政権交代へと追い込まれたのであった。そしてこの件は、熱しやすく飽きやすいわが国の特有の国民性が招いた悲劇として、総理の特異な風貌と共に末長く国民たちによって語り継がれるのであった。