[由来]

2期8年の長きにわたり勤め上げた前政権からバトンを渡される形で誕生したとある新政権。その門出にあたる施政方針演説の場において総理大臣自らが「DX内閣」を名乗り、新時代の国体づくりに意欲を見せるのだった。この時代、このタイミングで「DX」とくれば、当然デジタル技術を国政に活用するという意味の“デジタルトランスフォーメーション”のことだと誰もが1mmも疑問に思うことさえしなかったが、実はここに大きなワナが隠されていた。なんと、ここで総理が語った「DX」というワードには、国民が誰も想像すらしなかった事実が秘められていたのだ!

 

[足跡]

その衝撃の事実が明らかになったのは、当該内閣が誕生してちょうど1ヶ月後のことだった。ことの発端は「DX内閣」をうたいながらいつになってもそれらしい法案や政策案などが発表されないことを疑問に思った某新聞の記者のひとりが、首相官邸における囲み取材の場で総理に対して次のような質問を投げかけたことであった。記者の「総理の考える“DX”とは、どのようなイメージのものなのでしょうか?」との問いに対し総理が返した言葉はおよそ次のようなものだった。「私の考える“DX”の意味するところはただひとつ。すなわち“DX(ダメダメ トランスフォーメーション)”のことに決まっているだろう!」この瞬間、我が国が、いや、全世界が震撼した。そして、その場のそんな空気を無視するかのように総理が語る“ダメダメ トランスフォーメーション”の真の意味とは、頭の回転が悪く、何をやってもうまくいかないダメダメな自分自身と真摯な気持ちで向き合い、これを変革・克服(トランスフォーメーション)することでやがては社会全体を変えていくという決意の表れということだった。なるほど、確かに思い返してみると、就任後の総理の動きには、国会の登壇の際つまづいたり、時折演説の内容を忘れるなど稀代のダメ人間ぶりを感じされるものが多々あったのも事実だった。しかし、この説明で到底納得できなかった国民たちは堰を切ったように総理に対して非難の声を上げ始めたが、総理を筆頭に全閣僚が国民に向かって豪快なジャンピング土下座を敢行した上、「どうか我々のこれからを長い目で見守ってください!」と懇願したことから振り上げた拳を降ろさざるを得ないのであった。こうしてなんとか首の皮一枚で生き残る形になった「DX(ダメダメ トランスフォーメーション)内閣」だったが、決して困難から逃げず、ダメな自分と向き合いながら日々の政務をこなすその後の総理や閣僚たちのひたむきな姿を見た国民たちは「困難から目を背けず愚直に生きてさえいれば、人もこの国もきっと変われるはず」とのメッセージを受け取ったため、意外にもこの異色の内閣は隠れた名内閣として我が国の憲政史に名を残すこととなったのだった。