以下の内容は、第14話を視た後に、自分の脳内で勝手に妄想したちょっとした小説のようなものです。二次創作というほどでもないのですが、これも感想といえるかと思います。もちろん未視聴の方は、お気をつけください。
第14話より~『不安と覚悟』
もう一度振り返り、知世は池の向こうを見やった。
幾分回復したのか、立ち上がった李小狼は、すでに山崎達との会話に加わっている。いつかの、東京タワーで倒れた時よりも立ち直りが早いようで安堵した。
…いつかの?そうだ、まるであの時と同じよう…。ただの既視感のはずだ。それなのに知世は、不安になる。
今起こっていることは、今初めて起こっていることではないのだろうか?
クロウカードを捕獲していた時によく似たできごとが起こっているような気がする。実際良く似たカードがいくつもある。偶然、なのだろうか。はたまた気のせいなのだろうか。
不安を打ち消そうと、思考を続ける。いやそんな事だけが問題なのではない。もっと大事なことが、もっと心配になることが起こっている。あの時ばかりではない、そもそもあの少年はいつでも、彼の大切な人のためになら…。
「小狼君が止めてくれたの。…きっと、無茶したんだと思う。」
さくらの言葉を、知世は黙って聞く。
少し前、友枝町に戻って来た小狼。戻ってからの小狼の、穏やか過ぎる、全てを包み込もうとするような年齢不相応な笑顔が、ずっと気になっていた。
彼は間違いなく、無理をしている。彼の笑顔や、優しげな声音の奥に、まるで重い鎖をひきずるような不穏な音が通奏低音のように聞こえているから。
小狼にピアノ伴奏を頼んだり、自宅にさくらと共に招いたり、衣装を作ったり、知世なりに、少しでも気を紛らして、また自分に気を許してもらえないものかとあれこれ画策してみたりもしたが。衣装は、まあ成功したように思うが、ピアノの演奏については思わぬ成果があったのではと、ほくそ笑んだのも束の間、結局は小狼の苦悩を深める結果となっ
てしまったような気もする。どうも思い通りに事が運ばない。
小狼の苦しみは、夢のカードに深く関係することだ。けれども、だからこそ彼は何も語らないのだと、これも確信である。
彼が耐え忍んでいるのは、さくら自身に起こっていることで、今伝えてはならない何かがあるから。知ってしまうことでさくらが、辛いことになるからに違いないのだ。
さくらに起っていること、しかし、さくらに知らせるわけにはいかないこと…?
自分にも知らせてはもらえないのだろうか。一人で抱え込まねばならないことなのだろうか。
冷たい氷の塊を流し込まれたように胸がぞくりとした。
彼がさくらとともに過ごすためだけに、日本に戻って来たのではない、と、知世は始めから気付いていた。さくらの側でさくらを守るために、さくらの側にいなければならないから、小狼は戻って来たのだ。苺鈴からのメールで、直前に小狼の来日のことは知っていた。しかし、メールの文面には、意外そうな彼女の気持ちがあらわれていた。苺鈴にしても小狼があの日に日本に舞い戻ることは予想外だったようなのだ。
単に驚かすためであったのなら、喜ばしいことであったのに。まだ充分に準備ができていなかったものを、どうしてもこの時期に、日本に、さくらの側に来なければならない、そんな事態の幕が開いてしまったのだ。
それがきっと…。
透明になったさくらカード、新しいカード。
タイミングが良すぎる。あの事件は小狼が帰ってきたその日のことではなかったか。
「…強くなりたいよ…!」
さくらが、覚悟の決意表明を苦しい息の下に絞りだす。
「さくらちゃん、戻りましょう。」
知世はさくらを促した。さくらはうつむいたままだ。
「李君、疲れていらっしゃるのですから、お家まで送ってさしあげましょう。」
知世は祈る様に言葉を重ねる。
「そうだね。うん、そうしたい!」
さくらが、顔をあげ、笑顔となった。
しかし。
「いや、いい。もう気分も良くなった。ありがとう、さくら。ただ、やっぱり先に帰らせてもらう。俺なら一人で帰るから。まだ日も高い。苺鈴も詩之本も、みんなも楽しんで行ってくれ。せっかくの休日に水をさしてしまって本当にすまない。じゃ、また。」
一緒に帰ろうとした、さくらの誘いを断り、それでも追いすがるさくらを笑顔で制し、赤い毛氈の上から、空のペットボトルをつかみとると、小狼はすたすたと、一人で帰途についてしまった。
呆然としているさくらに苺鈴がそっと話かける。
「小狼ならもう、大丈夫よ。だいぶ回復しているみたいだから。さっき、ちゃんとしっかり立ち上がって話もしていたし。まあ今夜はさっさとベッドにはいるでしょうけどね。あとでメッセージ送りましょう?」
「苺鈴ちゃん…。」
苺鈴は元気よく振り返り、みんなに明るく呼びかけた。
「まったく小狼もしょうがないわね。従妹の私に免じて許してね。さあみんな、次、行きましょう! 私、おみくじ引いていないし、お守りもまだよ。詩之本さんもでしょう? 」
「あ、はい!そうでした!おみくじとても楽しみです!」
秋穂が応じる。
知世はさくらの手をとった。
「さくらちゃん、おみくじ引いてみましょう。」
「…うん。あ、小狼君に後でなにかお土産買おう。知世ちゃん、一緒にさがしてね。」
「もちろんですわ。」
さくらは笑顔を見せた。知世も笑顔でさくらに頷きながら、思った。
どうかこの笑顔が心からの笑顔である日が早く来ますようにと。そしてその笑顔の横に、あの少年が優しく微笑みながら寄り添っていてくれますようにと。
(2018/4/26)