微笑み


それは妻と二人のお子たちを連れだってスーパーへ行った時のこと

買い物カートに乗せているもうじき3歳になる娘をあやしている時の事だった
優しい微笑みが我が輩を見つめている


微笑みの先には20年前に付き合っていた
元カノと言うにはほど遠い、記憶の片隅にいた昔の彼女だった


妄想ではなく、当時の記憶が所々鮮明に蘇ってくる

彼女との出会いは20年ほど前のちょうど今時期だった

当時我が輩デスコ通いを週に2度はこなし
次から次と女の子を取っ替え引っ替え遊び盛りの頃だった


何度かSEXをしたことのある知り合いの娘と一緒に来ていた彼女


彼女を見た瞬間に一方的な恋が始まっていた

遊び相手だった知り合いの子からなりふり構わず
連絡先を聞き、翌日からはもう口説きの連続


実は、知り合う前に地方紙の職場の新人紹介欄に彼女が掲載されていて
我が輩、そのちっちゃなモノクロ写真に恋(妄想)をしていた
あ~こんな子を彼女にしたいと・・・


その子が目の前に現れたのだ
当然、口説かずにはいられなかった


俗に言う「甘酸っぱい思い出」なのだ


今で言うストーカー並の口説き、たぶん相当強引だった
自分で言うのも何なんだけど、惚れると強引な男だったと思う
(まっ、自分勝手なだけなんだが・・・)


一週間ほどかけやっとの思いで口説き落とし、めでたく付き合うことに
我が輩より一つ年上の彼女、とっても綺麗でめっちゃ可愛かった


1ヶ月ほど付き合った頃、やっと彼女も彼氏として我が輩を
友人に紹介してくれるようになり


2ヶ月ほどで、二人っきりの旅行へ行き
結ばれた


もちろん二人ともSEXは初めてではなかったし
相応の経験もあったが
我が輩は、遊びではなく
心のこもったSEXの喜びと快感を初めて得たような気がしていた


それほど好きだったし、いとおしかった
彼女と出会うまでは、自分が気持ちよければそれでよかった
そんなSEXしかしていなかったし、それで満足できた


彼女と体を合わせる度、はてる度に何かが変わった
たぶん我が輩が最初にいかせた?女だと思うし
初めて、わが輩自身を口に含んでくれた女性だった
彼女とのSEXは、本当に楽しく気持ちよかった


あっという間に夏が過ぎ、秋が訪れ始めた頃



突然、彼女の口から「子供、できたかもしれない」


そう聞かされた・・・


「俺の子だもん、産んでいいよ」(後先考えてなかったなぁ)
「まず病院へ行って検査しよう」(ちょードキドキだった)


産婦人科は二人とも、もちろん初めてだった
着たことのない似つかわしくないスーツを着た自分を
看護婦さんが気を遣い「旦那さん」と呼び

医師の待つ部屋へはいる若い二人


「クラミジア感染ですね」「妊娠に似た症状を起こすことがあるんです」
クラミジア?ハァ?初めて聞く言葉だった
そう、当時クラミジアは一般的にほとんど知られていない性病で
一部の病院でしか検査をしても解らなかったのだ


妊娠じゃない。正直ほっとした、反面ほんの少しがっかりもした

我が輩、結構若い父親にあこがれてた


我が輩も検査してみた、結果は未感染・・・・


つまり彼女が保菌者で、彼女は前の男から移された物だった

我が輩が口説いた時は、遊び人の彼氏と別れた直後で
そんな傷心な時に強引に口説いたのが我が輩だったことが判明





少しずつ歯車が狂い始めた



保健婦だった彼女は病気になったことと、抗生剤の効きが悪く
完治に時間がかかったこと
元々腰が悪くヘルニアの治療で休職し入院することが決まった事も重なり
ずいぶん悩んでいた


僕は、病気のことなど気にしていなかったし
まして、付き合う以前のことだ


でも彼女は違った



彼女の心が混乱し、心が離れそうになっていくのを感じた我が輩からは
彼女を口説いた時の強引さは消え
女々しさが増殖していった
しっかり、強い男として彼女を支えて行けなくなっていた

一つ年下の、背伸びする男になっていた


そして別れ・・・



彼女から別れを告げられ1ヶ月ほど会えない日々を過ごし

吹雪のクリスマス前夜再会、彼女への気持ちに変わりのないことを伝える

だけど、いつものように助手席に座っている彼女を

強く抱き寄せることができなかった

自分の弱さだった



あれから20年、今彼女は変わらぬ笑顔で微笑んでいる

我が輩と娘を包むように・・・・

何か、互いの、いや我が輩のわだかまりが

春の残雪のように解けていった


旦那とおぼしき人物と、むつまじく買い物する彼女
目と目とで短い会話をした


「幸せそうだね?」

「あなたも良いお父さんやってるのネ」
「ああ、妻も子供達も大好きだからね」
「じゃあ」

「またいつか」




淡い、淡い僕の恋の思い出・・・・





それにしても、旦那結構年上?

髪薄いじゃん、俺よりずっと親父に見えるじゃん
だけど優しくて強引なんだろォ?

・・・・・何となく負け惜しみ・・・・・・^^;