■はじめに――――――
本記事は、貴志祐介氏原作「悪の教典」(文春文庫/上下巻の小説、講談社/全9巻刊行の漫画版、作画は烏山英司氏)の二次創作小説となります。
閲覧に至っての注意点等は下記を。
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――ピコン。
――ピコン⋯⋯ピコン。
片桐怜花、早水圭介、夏越雄一郎、三人専用のLANEトークルームでは、活発なメッセージのラリーが続いていた。
〈食塩水混ぜたら、やっぱり固まるのも早かった! 本番はこの配合でいくぜ!〉
〈元のままでも、そこそこいけるんじゃねぇの? まあ、早まるに越したことはないけど〉
〈何事もスピード勝負、だろ? それよか雄一郎、『JT』忘れねぇようにな。何ならもう、朝から仕掛けにいくか?〉
〈@keisuke やめときなって! 言ってたじゃん。あいつの動きが一番活発なのは、朝の間だ、って。見付かったりしたらどうすんのよ!〉
つい勇み足になりがちな圭介の書き込みを見て、怜花は大慌てで戒めのメッセージを送る。
『蓮実の毛髪』取得後の翌々日、つまり一日空けた、翌日に決行予定の『決定的証拠』奪取作戦に向けてのやり取りだ。
このIT社会、アプリケーションから情報が流出してしまうことも考え、凛太朗から三人に対して『作戦についてのやり取りをLANEでするのは構わないが、くれぐれも固有名詞や、外部に漏れると疑われるような単語を打ち込むのは避けるように』との厳命が下っていた。
怜花は小さく溜め息をついた後、昨日の出来事を思い返してみた。
最も恐れを抱いている人間の、身体の一部――抜け落ちた毛髪とはいえ――を、まるで犯罪捜査に協力する警察犬のように探索し持ち去ったという事実。
実行中は無我夢中で、そんなことを考える余裕などなかったが、改めて振り返ってみると、その悍ましさに寒気がしてくる。
「今まで隠してたんだけど、わたしもハスミンの大ファンだったの!」
自分の所業がクラスメート全員にバレてしまい、思わずはぐらかそうとしている自らの姿が想起され、首を激しく横に振った。
圭介が昨日言っていた『蓮実教信者に毛髪を売ったら云々』という言葉が頭の中をリフレインしている。
もし、このまま順当に事が進み、蓮実が学校を去る事態が訪れたら、一体クラスの皆はどんな顔をするのだろうか。自分にとっては『もっとも理解不能なモンスター』でも、現在の彼は間違いなく学園になくてはならない、神格化されつつあるカリスマ教師なのだ。
気を許せる友人――数は少ないものの――たちが、心からの悲嘆の表情を見せることになるのは、あまりにも忍びない。
⋯⋯だけど、もう後戻りなど出来ない。やるしかない。それに、今の段階で中止を考える方が危険だ。
そのときは、自分にとって掛け替えのない、親友二人⋯⋯それと、もう出会えないかもしれないほど貴重な、本物の理想の教師を失ってしまうことになるかもしれないのだから。
怜花はスマートフォンを枕元に置き、普段より早めに自室の灯りを消した。
「おっす、怜花! おっはよ~!」
「あ、楓ちゃん、舞ちゃん! おはよ」
『決定的証拠』奪取作戦決行当日の朝、一人学校までの道程を歩いていた怜花に、小野寺楓子と去来川舞が挨拶してくる。
楓子は中学時代からの親友で、舞も知り合ったのは晨光学院に入学後からだったが、一年生のときから少なからず交友関係はあり、修学旅行の宿泊先のホテルでは同室だった友人同士である。
二人とも、ともに過ごした時間の違いはあれど、怜花にとっては気の置けない、ウマが合う人物だった。
――ただ一つ、蓮実教諭に抱くイメージを除いては。
「どした? 今日一人じゃん。夏越くんと早水くんは?」
楓子が『いつもの友人二人』を連れ立っていない怜花に尋ねる。
「あ、うん⋯⋯。フットサルの朝練とかで。先に出ちゃった」
「ふぅん、そっか」
〈@レイカ 相変わらず心配性だなー。道具類は人目につかないようにしとくし、サークルの早練ってことなら怪しまれねぇだろうよ。少なくとも、あいつに目は付けられねぇようにすっからさ。ま、決行前の下見ってやつ?〉
昨日、圭介から送られてきた、LANEの一文を脳裡に浮かべながら、怜花はそう返答した。
「それよか怜花。この間大丈夫だった? ほら、英語の授業の後、美咲たちに超、絡まれてたじゃん。ごめんねー。フォローしてあげられなくって」
「ううん! 全然そんな⋯⋯。楓ちゃんが謝ることじゃないよ。⋯⋯わたしがどんくさかったのがいけないんだし、アハハ⋯⋯」
一昨日の『蓮実教諭毛髪取得』時に、阿部美咲らと一悶着あった件で、楓子は心配そうに怜花を眺める。
舞もその一件は気に掛けていたようだ。
「美咲も、ハスミンのことが絡むと周りが見えなくなっちゃうからなぁ。ESSでも『みんなのハスミンなんだから、あんまり他の子には迷惑かけないようにね』とは言ってるんだけど」と、苦笑している。
⋯⋯みんなのハスミン、か。正に、その『みんな』から蓮実を引き剝がそうという行動計画が現在進行中なのだが。
昨日のすっとぼけたワードが過り、危うく怜花は頭を振りかける。
「それにしても、怜花は偉いね。授業終わりにすぐ板書の確認に行くなんて。てゆうか、ノートなんてわたしので良ければ全然、見せてあげるから。いつでも言ってね!」
「うん! ありがと、舞ちゃん」
才色兼備な舞が、まるで慈愛に満ちた母親のような口調で語ると、怜花はなんだか照れ臭い気持ちになった。
ただ、同時にズキン、と心に刺さる後ろめたさも付いてくる。
「やっぱり怜花はマジメだねぇ〜。わたしなんてESSのとき以外は遊び回ることしか考えてないよ。そもそもアンタ、そんなに英語の成績悪くないでしょ? あんまり今の時期から根詰める必要もないんじゃない? 何かあった?」
楓子がふと漏らした疑問に思わず内心でぎくり、とした。友人として接していくうちにとうとう、自分の直感力が伝染してしまったのだろうか。
「いや、そういう訳じゃないんだけど⋯⋯。何というか、来年からもう受験も始まるし、得意科目の一つでも作っておかないとなぁ、っていうか」
もっともらしく思われるよう、怜花が理由を述べると、舞が顔をぱっ、と輝かせた。
「前から思ってたんだけどさ、怜花もESS入っちゃいなよ! 途中入部でも何も問題ないし、大歓迎だよ」
「それ、わたしもずっと思ってたの! 今もすごい楽しいけど、怜花も一緒だったらもっと良いのになあ、って。ハスミンがいっぱい教えてくれるから、絶対役に立つよ!」
舞の提案に楓子も、喜色満面で賛意を示してきた。彼女にとってその、『ハスミン』の存在こそが最大の障壁であることも知らずに。
「あ、いや、さすがに部活となると、ちょっと⋯⋯ね。雄一郎とか圭介とかとの付き合いもあるから」
親友からの勧誘を無碍にするのは気が引けるものの、放課後にまで、あのモンスターの息吹を受けることになるのは耐え難い。丁重にお断りする。
「そっかぁ⋯⋯。ま、アンタも事情があるだろうしねぇ。う〜ん、それだったら⋯⋯」
楓子は残念そうに呟く。だがその直後、何かを閃いたように切り出した。
「ねぇねぇ! 怜花、舞! 今日の昼休みに良かったらさ、――」
⋯⋯えっ?
親友からの唐突なその発案に、怜花は呆気に取られた。
⋯⋯カシャッ、カシャ⋯⋯タッ。
その日の三限目が終了し、一時間の昼休みに突入した即時、早水圭介は行動を開始した。
予め朝のうちに隠しておいた、作戦決行に必要な小道具一式を詰めたボンサックバッグを斜め掛けに背負い、人目に付かないよう、猫の如き素早い動作で金網を登り、林の中に降り立つ。
幸い、周囲に人影は感じられない。一旦、校舎内にいる人間からは見えない、鬱蒼とした地点まで移動する。
〈『中』に入った。何か怪しい動きはあるか?〉
北校舎東、林寄りのグラウンドにて、リフティング練習をしている夏越雄一郎のLANEに、親友からのメッセージが届いた。
ポーン、ポーンとフットサルボールを蹴り上げるのを止め、校舎と周囲の動静を観察する。
〈今のところ、大丈夫だ。気を付けてな〉
雄一郎からの返信を受け、圭介はバッグの中から、十字に折り畳まれたA4サイズほどの用紙を開く。
晨光学院町田高校の校舎配置図、その一部がズームされ、二ヶ所ほど、楕円形の赤丸でエリアが示されていた。
圭介は、現在自分が踏み締めている、土の感触を確かめる。
「これならまだ残ってる筈だ。一時間⋯⋯いや、出来りゃ三十分で済ませてぇ。どっちにせよ一本勝負だ」
軽く胸に手を当て、逸る気持ちを抑えつつ、狩りを開始するヤマネコのような敏捷さで、ざっ、と駆け出した。
―――
――
―
スーッ⋯⋯シャッ、シャッ⋯⋯。
怜花、圭介、雄一郎が見守るなか、凛太朗は学園の見取り図にボールペンで線を入れていた。
『ペータース図法』に用いられるような、北緯と南緯を示す線が、図面に次々と走っていく。
真田教諭運転事故発生のその日、犯行後に蓮実がどのような経路で逃走したのか、炙り出すためだ。
「蓮実の住まいは確か、七国山緑地の方、って言ってたよね? 片桐さん、夏越くん?」
流麗な筆致で図面に書き込みを続けながら、凛太朗が二人に尋ねると、その作業に見惚れていた怜花、雄一郎は、あたふたしたように答えた。
「あっ、は、はい! 今年度が始まる前にその辺りに引っ越した、ってことを聞きました。直接じゃなくて人づてに、ですけど」
「ふむ⋯⋯そうなると、犯行後に最短ルートを取るためには⋯⋯」
凛太朗は短く揃えた顎鬚を指で撫でながら、思案している。
「凛さん。蓮実の逃走ルートなんて、今上がってる情報だけで、本当に分かるもんなのか?」
圭介が、凛太朗の作業を興味深そうに見つめつつ、疑問を投げかけてきた。
「ああ。完璧に、とは言えないまでも、一定以上の精度を得ることは可能だよ。⋯⋯っと、よし。こんなものか」
凛太朗は言い終わるとペンを置いた。
一同の前に平行、屈形様々な形の線や矢印と、☓が複数、加えて赤丸が二ヶ所書き込まれた校舎配置図が披露される。
三人はまるで、新たに発表された数式を眺める学者のように、それを矯めつ眇めつしている。
「蓮実が竹棒を用いて車を衝突させた後、その場を離れるにあたり、どのような導線を取ったのか? 検証していこう」
図面の書き込みの中で特に目を引く部分は、正門と、事故発生現場より以西に位置している林、それから体育館周辺に書かれた☓であった。
「当時の状況から、奴が逃走経路として選択し難いコースから考えていくのが有益だろう。まず、正門から一目散に退却、これは論外だ。見付かったら一貫の終わりの状況下で、夜分とはいえ、隠れられる場所もない一本道をランニングなど有り得ないからね。となると、事故現場の駐車場からみて北西部にある林へ――だが、ここも経路としては除外してよい、とみる」
「その論拠は?」
圭介が、凛太朗の説明の間を縫って尋ねた。
「校舎配置図、特にこの二つに分かれた、林の位置関係を見てほしい。学園以西に拡がっているものと、北校舎より北東に掛けてのものがあるが、学園以西の林へは、駆け込むまでに、物陰になるような施設はどこにもない。林の中に入ってしまえば、南北に大きく延びている運動部部室が校舎側からの視界を遮ってはくれるが、そこに至るまで、職員室のある本館からは丸見え状態。この図だと、駐車場から距離にして200m近く離れていそうだし、手に竹棒を持っている、という状況からみても、奴からすれば、もっと早くに、死角を取れるルートに駆け込みたいところだろう」
怜花、雄一郎ともに、その分析に思わず唸る。
「⋯⋯そっか! 同じ理由で、体育館に向かって北へ突っ切る、ってコースも除ける、ってことね。だって、蔓薔薇の花壇越し、中庭越しに左右から何mも丸見えになっちゃうもん」
「でも事故があった時間帯を考えたらそこまで⋯⋯あっ! 今、怜花が言ったように、中庭側はともかく、蔓薔薇側は確かにマズいかもな。部室棟は校舎側に向けて出入り口が付いてるし、歩きか、自転車でも帰れる連中が居残ってる可能性もなくはないから」
怜花、雄一郎からの見解に、凛太朗は少し驚きの様相を見せると、大きく頷いた。
まるで、以前まで苦手としていた課題を解いてみせた生徒を称賛しているかのようだ。
「蓮実が、逃走に際して選ばなかったルートについての説明は、もう充分なようだね。それを踏まえると、必然的に、あの日奴がどういう経路を辿ったのかも浮き彫りに出来る、というものさ」
凛太朗は説明を続けながら、自身が完成させた『蓮実逃走図』に書かれた矢印の上をペンでなぞる。
まず、真田教諭の車を酒井教頭のそれに衝突させた蓮実は、竹棒を持ったまま脱兎の如く本館西階段の死角へ身を隠す。
その後、事態に気付いた人々が駆け付け始めようか、というタイミングを見計らい、渡り廊下経由で中庭へ。
周囲の注意が駐車場に向いていることを利用し、中庭を本館に沿って東に移動、そして、『北校舎より北東に掛けての林』を抜けて姿をくらます⋯⋯。
「この経路で間違いないだろう。そして、七国山緑地の方角へ、もっとも効率よく林を通り抜けられそうなのは、ここ⋯⋯あるいは、このポイント、という訳だ。さて、この数分で勘がよく働くようになった君たちなら、俺が何を言いたいか、追加で何をお願いしたいのか、は、もうお分かりかもしれない。ここまで詳らかに蓮実の導線を明かした理由。物質的な『決定的証拠』とは、一体何なのか。⋯⋯早水くん、答えてくれるかな?」
圭介が授業中かのように手を上げると、怜花、雄一郎ともに息を殺して、彼の発言を待った。
一瞬の間を置き、凛太朗に回答する声が響く。
「蓮実が林の中に残した、『足跡』と『竹棒』です。志野センセー」
―――
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厚く生い茂った木々の合間を縫いながら疾走していると、何だか自分の方が、その身を追われている手配犯のような気分になり、圭介は林の中で、今まで感じたことがない高揚に包まれていた。
身を潜めつつ素早く動くためのコツは、渋谷や町田のクラブなどで、補導から逃れるために会得したものだが、今回はそれとはまた違う、奇妙な血の騒ぎ方。
自身の足跡は残すことがないよう、装着してある地下足袋の地面を踏む感触も、非日常感を亢進するのに一役買っているのかもしれない。
凛太朗の見立て通り、梅雨入り前の林の中は程よい湿度が保たれており、踏み締める腐葉土は、普段自分たちが着用しているようなシューズやスニーカーでここを走破すれば、数日間は残存するであろう足跡が付いてしまう、ということを如実に物語っていた。
圭介は走りながら、スマートフォンで現時刻を確かめる。
「まだ五十分弱、猶予はあるな。この辺は『ポイント』までもう目と鼻の先の筈だけど」
凛太朗が記した赤丸位置を再度確かめるため、ポケットから校舎配置図を取り出そうとした矢先、視線の先に捉えたものが、ドクンッ! と、一発の巨大な胸打ちを喚起してきた。
地面に散らばる落ち葉が、ある一部分だけ、不自然に乱雑になっている。
そして、剥き出しになった腐葉土の上に、靴底、それもスニーカーによるものと容易に分かる皺が、一定の間隔で複数刻まれていた。
年に一度行う学園内の大清掃においても、林の中などその対象外だし、ここ数日で役所の人間なんかが保全のため立ち入った、などという話も聞いたことがない。
身を屈め、至近距離からまじまじと眺めてみる。年頃の男子高校生よろしく、自分にもスニーカーやシューズメーカーの知識は一定量ある。
ナイキのスポーツスニーカー。サイズは28cm弱、男性用。
そして、この歩幅を考えると⋯⋯。
「⋯⋯間違いねぇな」
圭介は前後左右、慎重に辺りの様子を伺った後、ボンサックバッグの中から、長さが同じベニヤ板を四辺と金槌、そして、小麦粉を溶かしたかのような、白い液体が入った袋を取り出した。
(圭介のやつ、上手くやれてっかなあ⋯⋯)
雄一郎は北校舎近辺の校庭で、林の様子を監視しつつ、一人、フットサルボールと戯れながら連絡を待っていた。
「あれ、夏越じゃん! 何やってんの? こんなとこで」
聞き慣れた声に目をやると、有馬透がヘラヘラしながら近づいてきた。
また、お前か。
うんざりしかけたが、彼だけではなく、同じく四組の、加藤拓人と佐々木涼太も一緒だった。そういえば、佐々木は違うが有馬と加藤はサッカー部のクラブメートだったか。
「い、いや〜、こないだサークルの先輩から『お前、ドリブル下手すぎ』とか言われちゃってさ。腹立つから個人練ってやつ? 人目につくのも恥ずいしよ」
一昨日に教室で述べた口上よりは苦しくない筈だ。
「だはは、何だそりゃ! よりによってこんな端っこでやるこたねーだろ」
有馬らが噴き出しながら言う。
いや、親友が今、近くの林で忍んでいるもので。当然、そう言える訳はないが。
「いーじゃねぇか、別によ。あれ、そういや山口は?」
雄一郎は蓼沼なき後――死亡はしていないが――のクラスのボス格である、山口卓馬が見当たらないことを指摘した。
「あー、あいつはラグビー部の先輩に呼び出されちまっててよ」
「あー、あいつはラグビー部の先輩に呼び出されちまっててよ」
「一人じゃ暇だろ、夏越。せっかくだし、2対2でもやろうぜ!」
佐々木と加藤が平易な調子で話しかけてくる。声のトーンから、所謂『プチ不良』ならではの砕けた雰囲気は伝わるものの、普段はさほど悪い奴らでもない。断るのも不自然だし、圭介の機敏性と要領の良さを考えると、最低限の見張りで構わないような気もしてきた。
それに何せ、ことがうまくいってたら今頃蓮実は⋯⋯。
「それよかよぉ、『相方』放ったらかしにしといていいのかよ、夏越くん! 今頃寂しがってるぞ〜?」
「だから、あいつとはそんなんじゃねぇ、つったろ。⋯⋯有馬、大概にしねぇと怒るぜ?」
「ハハッ! 悪い悪い! ジョーダンだよ。よし、じゃ俺と夏越でペアな。あっ、拓人、涼太! そこのゴールポスト起こしてくんねぇ?」
怜花との関係性を茶化してくる有馬をぶっきらぼうに遇した後で、途端に心配になってきた。
「『作戦』のことを考えたら、願ってもない好条件ではあるけど、まさか、こうなるとは⋯⋯。大丈夫かな? 怜花のヤツ」
級友らとボール回しをしつつ、雄一郎は、校舎内で同じく『忍んでいる』に等しい心境であろう、もう一人の親友の身を案じずにはいられなかった。
