三代将軍家光が世継ぎである後の四代将軍家綱の殺害を命じる。奇想天外な発想に始まる映画『将軍家光の乱心 激突』が以前、NHKのBSで放送された。

 

 主演は緒方拳さん。家綱を守り抜く浪人の役だ。金で雇われたが、配下の者たちとともに命を賭して、仲間たちとともに家綱を守る。その一途な姿が美しく、最後は使命を果たし、花と散っていく。

 脇を固める俳優陣も豪華だ。松方弘樹さん、千葉真一さん、丹波哲郎さん、長門裕之さんら。家光を京本政樹さんが演じたが、まさに乱心のふるまいだった。

 

 家綱を演じた子役の演技もよかった。世間知らずそのままをうまく表現した。

 家光の意を受け、老中阿部重次が家綱殺害に動く。家綱を預かり、守るのが堀田正盛だが、命を懸けて家綱を守ろうとする。史実では、家光を支えた二人の重臣が敵として対峙する。

 

 家綱は無事に江戸城に到着し、父家光との対面を果たすが・・・。結末はなんとも衝撃的である。

 史実では家光が死亡したとき、阿部重次と堀田正盛は家綱に殉死している。

 シナリオがすばらしい。そして、うまく考えている。この映画では、正盛は刺客に殺され、重次は家光の死に殉じ、切腹した。つまり、史実と同じである。

 

 昔の時代劇はスケールが大きく、娯楽に走っていない。史実を忠実に描きつつ、独特な発想を加えている。

 真実は史実のとおりであるかはわからない。だからこそ、自由に発想してもいい。

 名も知らぬ多くの人間がひっそりと暮らし、なかには無残にも命を奪われた。それが江戸時代、いや、現代とは違う現代以前の時代の実態である。

 命がある意味、軽く考えられていた時代である。人生も短く、50年と言われた時代。家族間の愛情もあったにせよ、生きていくために家族愛が犠牲になったことも多い。

 

 時代劇を見ていると、楽しいシーン、勧善懲悪の痛快なシーンばかりに目がいくが、庶民の苦しい暮らし向きを忘れてはならない。

 理不尽に殺される、苛められるのは貧しい民である。命を賭して主君を守る武士たちもいる。

 

 緒方拳さん率いる浪人たちは家綱を最後まで守り抜く。一人散り、二人散り、そして、最後に全員が散っていく。悲しいことだが、なぜかその姿が美しかった。

 これが、本当の武士道だと思った。

 武士道は美しくても、やはりせつなさが残った。