CDレビュー:sora tob sakana『sora tob sakana』 | アイドルKSDDへの道(仮)

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心に茨を持つ山梨県民こと「やまなしくん」のブログ。基本UKロックが好きですが、最近はもっぱらオルタナティブなアイドルさん方を愛好しています。

振り返れば、BiS(新生アイドル研究会)が容赦のないラウドロックを片手にアイドルグループを始めたことは衝撃だったし、それは筆者のような一介の音楽ファンをアイドル音楽へと誘うきっかけにもなった。以後、ロックを武器にするアイドルが次々と現れ、それは珍しいことではなくなった。本物のヘヴィメタルを携えて世界へと飛躍したBABYMETALについては言うまでもないし、他にもエレクトロニコアをバックにグロウルボイスまで披露するPassCode、デジタルハードコアを笑撃のパフォーマンスで提示するデスラビッツなど、多彩なグループが既存の「アイドル」の枠組みを破壊し、拡張し続けているのが今のシーンだろう。

そんな中で現れたsora tob sakana(ソラトブサカナ)という、平均年齢14歳(!)の女の子4人組は、「アイドルとロックの融合」という点で究極ともいえるグループであり、この1stアルバムによってその全貌を露わにした。

全ての曲を手掛けているのは、残響レコード所属のバンド「ハイスイノナサ」の照井順政氏。氏はポストロック、マスロック、エレクトロニカそしてミニマルミュージックを特徴とするバンドサウンドの曲を、そのままローティーンのアイドルに歌わせる…という狂気のプロジェクトを展開。その結果は、どうだ。#3「広告の街」イントロでの複雑極まりないキメのリズムの応酬の中で、4人は歌い、踊っているではないか…(筆者はこれをライブで観たのだが、信じられない気分だった。)

4人のヴォーカルは決して「上手い」わけではなく、発達途上にある十代前半の女の子ならではの歌声といった感だが、これが楽曲と化学反応を起こして、意外な効果をもたらしている。#4で、疾駆するバンドサウンドと舞い上がるメロディラインによって「夜空を全部 あなたにあげる」と無垢な歌詞を歌う、その声のあどけなさ。そうやって、曲のあちらこちらから思春期ならではのピュアネスが次々とこぼれ落ちていく様は、何という魅力なのだろう!同世代には共感を呼び、年齢を重ねた世代には郷愁を呼び起こすような力が、そこにはある。

アルバムのアートワークは、晴れた空の下、水田の中を真っ直ぐに伸びる道の写真。その道を、純白のステージ衣装に身を包んだメンバー4人が手をつないで駆けている。最後の曲のタイトルは「クラウチングスタート」…それは、アイドルシーンを、そして人生を駆け抜けようとする女の子たちの限りない可能性を祝福している。そしてそれは、受け手である僕たちの人生さえも祝福しようとしている、とは言えないだろうか?

本作は、創造的で高密度、そしてエモーショナルなロックバンドサウンドを「アイドル」のフォーマットでアウトプットした画期的なアルバムであり、思春期の揺らぎや美しさを体現する音楽だ。そんな作品が、日本語ロック史における傑作でないはずがない。ぜひ、その目と耳で確かめてほしい。