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題名・砂の女
著者・安部公房
発行・新潮文庫あ4-15
昭和56年2月25日発行
平成4年5月30日三十二刷


海外20ヶ国以上に翻訳されたという名作。
気になっていましたが、ついに100円で購入。

新種の昆虫を探して砂丘を訪れた主人公の男。
騙されて砂の穴に建つ埋まりかけた家に放り込まれる。
そこには女が毎日砂をかきながら生活していた…

実際には絶対ありえない話なのに、引き込まれるように読んでしまうのは、リアリティのある文章表現力のせいでしょう。

砂穴の中という限られた生活域で男と女が二人。
どこかエロチックな印象があるなと思ったら、やはりそういう展開に。

しかしそれは決して愛情などではなく、閉じ込められた男の行き場のない感情からなのだろう。

ある方法で砂穴から脱け出すことに成功した主人公、しかしそこの土地から脱出するのはどうやら不可能なようだ。

結局捕まり穴の中に戻された主人公は女との共存の道を選択する。
いずれ逃げ出そうと思ってはいるのだが日々生活感が増していく。
さらにひょんなことから没頭できるものを見つけた主人公は、生きる意味を見い出したかのように生き生きとする。

人間というのはひょっとしたら、環境の良し悪しよりも存在意義の明確さにより生きていける生き物なのかもしれない。

そういえば主人公は最初、砂地のような過酷な場所に生息する新種の昆虫を探していた。
新種の昆虫は見つけられなかったが、主人公自身が、探していた昆虫のような存在になったわけだ…

世間からは決して見つけられない存在に。