仕事を通し見えること | もつ焼き松っちゃん おかみの記

仕事を通し見えること

 こう猛暑が続くと体力だけは自信のある私でも、いささか辛さを実感。

仕込を終えての食事作りは、火を扱うので敬遠したくなる。ご近所に夫

婦でお昼をいただきに行くことが増えた。


 そんな時に無意識のうちに二人とも採り皿を遠慮させていただく。何

故そうなったのかは商売柄としか言いようがないのだが、飲食業は、

一品の価格の中に光熱費、水道代、おしぼり等が含まれている店は

そう多くはない。高い価格でそれなりのサービスを提供するのは当た

り前だが、これほどの不況下にそんな商売は続かない。


 一皿汚すたびにコストがかさむことを考えてしまうのはむしろマナー

だとさえ思ってしまう今の自分に、シングル時代とのあまりの差に驚き

ながらも逆にうれしく思う昨今だ。


 一皿3本で200円の当店のもつ焼き、他店と比べても安いと思う。3

人で来店され、「すみません。採り皿3枚お願いします」との横柄な一

言。3枚の皿にお出ししても平然と言い切る。


 「申し訳ありませんが当店は一皿ごとお出ししていますから皆さんに

ご協力いただいています」と申し上げ、それでも一皿お出しした。すると

その皿に抜いた串を入れていたのだ。


 互いに「先生」と呼び合うようなステータスのある方なのだろうがその

割に、場所をはばからぬ大きな声で、言葉遣いにもぎょっとしてしまう

こともあり、久し振りに憤りに震えた。下町のもつ焼き屋に来たのなら、

雰囲気くらい感じ取ってほしい。それが客側にとってのマナーではない

のか、と言い切ってしまう私だからいけないのかな?  


 殿様商売と言われても結構、相手を思いやれないような生き方は必ず

どこかでほころび始める。些細なところに人間の真の姿が現れる。店に

立って13年、仕事を通し見えることは、かつて取材をしていた頃よりもシ

ビアに私に人生の真髄を教えてくれるようで本当にありがたい限りだ。


 心の通い合う関係を作り上げる、生意気なようだがそんな店でありたい

と願っている。