誰も買わない宝クジ
「兄ちゃん、ちょっと写真、取ってくれんね」
そう声をかけられたのは、ある峠での、夏の早朝であった。振り向くと、ライダースーツを着たおっちゃんがいた。その近くには長距離ツーリングの途中なのだろう、荷物を満載したアメリカンが駐車してある。
私は喜んで写真を撮った後、そのおっちゃんと雑談した。お互いまったくの初対面なのに、バイクに乗っているというだけで、話が盛り上がるから不思議だ。
関西から来たと言うおっちゃんは、今、仕事を辞めて、旅しているらしい。どうしても、やりたいことがあるのだそうだ。
「そのおかげで、今は根無し草の生活や。兄ちゃんも、こんなんなったらアカンよ」
「いえ、そんなことないですよ。羨ましいです」
「何や、兄ちゃんも仕事辞めたいんか」
「はあ、まあ、そんなところです」
あまり初対面の人と話す内容じゃないなと思いつつ、話をはぐらかす。
「兄ちゃん、こんな話、知っとるね」
すると、おっちゃんは得意気に話はじめた。
「宝クジは買ったヤツにしか当たらんて、よく言うやろ。人生も同じや。生きてると、目の前に自分だけの宝クジがぶら下がることがある。でも、その宝クジは、どうせ当たらんいうて、誰も買わん。そしてクジを買ってハズレたヤツを、したり顔でバカにするんや。カッコ悪いやろ? でもオレは、その宝クジを買ったんや」
おっちゃんは、照れくさそうに笑った。
住所や連絡先、名前さえ聞かなかった出会いだったけど。おっちゃん、私は誰も買わない宝クジを買ったあなたを尊敬します。
そう声をかけられたのは、ある峠での、夏の早朝であった。振り向くと、ライダースーツを着たおっちゃんがいた。その近くには長距離ツーリングの途中なのだろう、荷物を満載したアメリカンが駐車してある。
私は喜んで写真を撮った後、そのおっちゃんと雑談した。お互いまったくの初対面なのに、バイクに乗っているというだけで、話が盛り上がるから不思議だ。
関西から来たと言うおっちゃんは、今、仕事を辞めて、旅しているらしい。どうしても、やりたいことがあるのだそうだ。
「そのおかげで、今は根無し草の生活や。兄ちゃんも、こんなんなったらアカンよ」
「いえ、そんなことないですよ。羨ましいです」
「何や、兄ちゃんも仕事辞めたいんか」
「はあ、まあ、そんなところです」
あまり初対面の人と話す内容じゃないなと思いつつ、話をはぐらかす。
「兄ちゃん、こんな話、知っとるね」
すると、おっちゃんは得意気に話はじめた。
「宝クジは買ったヤツにしか当たらんて、よく言うやろ。人生も同じや。生きてると、目の前に自分だけの宝クジがぶら下がることがある。でも、その宝クジは、どうせ当たらんいうて、誰も買わん。そしてクジを買ってハズレたヤツを、したり顔でバカにするんや。カッコ悪いやろ? でもオレは、その宝クジを買ったんや」
おっちゃんは、照れくさそうに笑った。
住所や連絡先、名前さえ聞かなかった出会いだったけど。おっちゃん、私は誰も買わない宝クジを買ったあなたを尊敬します。