両手を広げ | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

 「両手を広げ」

 

   Ⅰ

 

人間たちは

待たれている

 

この瞬間

生きるようにと

 

手をひろげ

すべてが待っている

 

苦しみがあるだろう

悲しみがあるだろう

 

少しも解決はしていない

なにも修復はしていない

 

それでも

人間たちは望まれている

 

   *

 

確かに呼吸し

確かに脈動し

 

片時も目を離さず

片時も手を緩めず

 

ようこそ

ここに

 

人間たちは

たった今真実の中にいる

 

苦しみの真っ只中で

どう生きるのか

 

絶望のどん底で

どう生きるのか

 

   *

 

生きることは

できない

 

まったく

生きることはできなかった

 

あの日あの闇の中で

どう生きたのか

 

あの日あの嗚咽の底で

どう生きたのか

 

いや

まったく生きることなどできなかった

 

ただ

気づけば生かされていたのだった

 

   *

 

あの日振り向くと

大木が輝く葉をなびかせて

 

両手を大地に広げ

立っていた

 

いのちは

最後の一瞬まで

 

人間たちを

待ち望む

 

感じよう

生かされよう

 

この瞬間

燃えるようないのちの呼びかけに

 

   Ⅱ

 

カランと

遠くで鳴っている

 

風は急ぐ

生暖かさを吹き付けて

 

光さえ

散らすように

 

いのちのようなものが

小さく叫んでいる

 

   *

 

思いめぐらせば

あらゆる出会いが

 

静かに

流れてきます

 

ここに置かれていることを

いま

 

呼吸

しているのです

 

   *

 

いのちの

根源に触れながら

 

少しの

時間

 

一分でも

一秒でも

 

魂が

安らげますように

 

   Ⅲ

 

いのちは

いつも待っている

 

両手を広げ

生きるようにと

 

万物が

創られたように

 

ありのまま

生きるように

 

血を流し涙を流し

痛みながら

 

それでも

与えようと待っている

 

いのちは

決してあきらめない

 

どんなに

地上がすさんでも

 

新しい世界に

生かそうと

 

いのちは

この瞬間も

 

あなたを あなたを

あなたを 待っている

              motomi

 

※ 決して偶然ではありません。今日目覚めてここにいること。