「 負債 」

 

   Ⅰ

 

この体

どれほどのことか

 

ここにある

なんということか

 

動く

たしかに

 

ゆるされている

すべてが

 

なにが

あろうか

 

なにを

言おうか

 

これが

いのちか

 

これが

生きているということか

 

尽くさずに

あろうか

 

祈れ

祈れ

 

この瞬間

悲惨に耐え抜いている

 

人類の

仲間たちを

 

そのために

いまが与えられた

 

すべてに

いただいたいのち

 

どうして

返さずにいられようか

 

いのち丸ごと

祈りに変えん

 

   Ⅱ

 

この手紙を書くのは

また 新しい朝を迎えたからです

 

あなたに もういちど

出会えました

 

   *

 

人間は やはり

自分で生きているのではないと思うのです

 

一滴の水が地にしみこむように

いのちは朝を迎えます

 

   *

 

のぼりかけた階段を

途中で引きかえします

 

なにが いのちを支えているのか

確かめたかったからです

 

   *

 

急須 座ぶとん

くすり箱 杖 

 

見なれたものが

それは それは やさしくて

 

   *

 

歴史の突端から

すべての いとなみが

 

音をたてて 

流れこみます

 

   *

 

うまれた

瞬間から

 

いのちを

負っているのです

 

   *

 

泣きじゃくる赤ん坊を

あやすように

 

いのちを さする

まなざしがあります

 

   *

 

真夜中に 風に吹かれました

木の葉は ゆれているのに

 

私には なにも

お返しできるものはありません

 

   *

 

なのに わたしは確かに

ここにいます

 

生きていること

当たり前のことではありません

 

   Ⅲ

 

流れる満月

闇高く

 

地上をつつむ

七色の光輪

 

かすかに揺れる

笹の葉に

 

灯すいのち

さわさわと

 

  ***

 

ここに

置かれています

 

しいんと

置かれています

 

それでも

置かれています

 

じっと

いのちを感じています

 

  ***

 

どこに

耳を傾けるのか

 

いのちを

守れ

 

呻きを

捨てるな

 

苦しみゆえに

いのちを授かった

 

  ***

 

生きる

これがいのちのキーワード

 

まず

生きよ

 

生きて

感じよ

 

魂を

震わせ合いながら

                motomi

 

※ すべてを省いて、残されているものは何かを探ってみるのです。