想い出をかぞえて | 一冊の詩集

一冊の詩集

人生終わるとき一冊の詩集が出来上がっていたら。
一日一日を大切に。

小鳥のさえずりが心の窓を叩きます。「おはよう」と伝え「おはよう」と返ってきます。

たわいない一つ一つに支えられ、私たちは生きているのだと感じます。

どうぞ、心豊かな一日でありますように。

 

 

「想い出をかぞえて」

 

  a

 

母との時間

ほんの数十分の出会い

 

母の後ろに立ち

髪をとく

 

母の足もとにかがみ

クリームを塗る

 

母の背に重なり

横顔をのぞきこむ

 

ほんの数十分の

いのちをこめた出会い

 

  *

 

胸に遠い日の残り火を

燃え立たせながら

 

人生のもっと奥に

手を差し伸ばしながら

 

今日もつたない足は

歩をすすめる

 

生きるためにいただいた

たくさんの人生

 

想い出は待っている

あなたをほほ笑むために

 

  b

 

それは 突然

かもしれない

 

いや すでに

忍び寄っているのかもしれない

 

  *

 

触れたとたん

消えたのは

 

電球がそのときまで

じっと耐えていただけ

 

  *

 

歴史は

もくろまれ

 

息をとめて

呼吸する

 

  *

 

隠れているもの

出て来なさい

 

脅かすのは

やめなさい

 

  *

 

垂らされた一滴一滴を

ぬぐいながら

 

いのちという文字を

書いてゆく

 

  *

 

臆病なもの

情けないもの

 

そのままで

ありなさい

 

  *

 

風も水も

雲も木々も

 

あるあらゆる時間が

語るでしょう

 

  *

 

あなたは

雄々しく尊い

 

人間という

宇宙

 

  c

 

消火栓の下で

枯れたねこじゃらしが

金色の手をあげた

 

わたしも

あなたみたいに

生きられますか?

 

  *

 

日だまりは

なぜ こんなに

あったかいのだろう

 

きっと

お日さまは

宇宙で一番寒がり

 

  *

 

あのときの 哀しみ

あのときの 痛み

あのときの ため息

 

見ていられないから

つぼみのなかに

やさしく宿す

 

  *

 

覚えていますか

あなたの心を

知ることはできません

 

思わず

ひざまずいて

わびたくなって

 

  *

 

だから

いま祈っています

想い出の中で

 

あの日

あのとき

あなたのままを

              motomi

 

※ 引き返してはまた進み、さらに新しくつくられてゆきます。