side S
「以上が今お伝えできる企画内容です」
澱みなく終わった報告に、2、3の質問が出たが特に問題なく報告会も終わった。
『オレ人前で話すのって苦手。仕事しだしたらそういう事しなきゃなんないよね?
翔ちゃんは上手くできそうだよね』
『慣れだよ慣れ。大学でもそういう機会あんだろ?どんどん前に出れば?』
『オレそういうタイプじゃないもん』
コトが終わったあとベッドの中で、
あれは付けっぱなしのテレビを見ていた時だったか?そんな事を言っていた。
それが今じゃ堂々としたものだ。
あの頃、恋人じゃない俺たちは
吐き出した欲を処理すると
当然、雅紀を腕枕するはずもなければ
抱きしめることもない。
俺はベッドでタバコを咥え
『危ないからベッドではやめたら?』
と言う雅紀に『へーい』と返事をして
ベッドから抜け出し換気扇の下に移動する。
そして雅紀は『シャワー借りるね』
そう言って風呂場に向かう。
言うなら、その程度の付き合い。
話し終えた雅紀が、サイドの髪を右耳にかけながら自分の席まで歩く姿は、綺麗で艶っぽくって
俺の下で、時には俺に跨り
儚く善がり、俺の目を潤んだ瞳で見つめていたあの頃が
この美しい姿に咲くための備えだとしたら
俺はその備えに役に立ったのだろうか…
そんな事を、あの頃の気だるさを思い出しながら、ぼんやりと見ていたら
俺の方をチラッと見た雅紀と目が合い
「痛てっ」
また胸がギュッと握り潰された。
胸に拳を当て、ふーっと細い息を吐いていたら
スマホを指差す、雅紀の部下の高木くんが視界に入った。
ん?何?何?スマホ?
自分のスマホを見てみると
『今夜飲みに行きません?
まだ1回もそういうのないじゃないですか?
絆深めましょうよ』
と、メッセージが来ていた。
高木くんとは打ち合わせで何度も顔を合わせていて、親しみやすく話しやすい子、それでいて控えめ、そんな印象を持っていた。
雅紀のチームはみな穏やかで温かい雰囲気なんだろうと想像できる。
ただ唯一、二宮と呼ばれるヤツは曲者。
と思われるけどな。
『いいね。みんな誘って行こうよ』
と返信をし、高木くんを見たら小さくVサインをしている。
おい、会議中だぞ?Vサインって…
今どきの子だなと思いつつ、俺もVサインで返したら
目の端に、クスッと笑う雅紀の顔が映り
今夜雅紀も来ないかな?
さっきは久しぶりに話して緊張したけど、ゆっくり話したい。
高木くん、ちゃんと雅紀も誘えよ?って
メッセージじゃなくて『念』を送り
会議室を出る雅紀達を見送った。
昼になり、山田に『お昼、屋上で待ってます』
と連絡を受け
屋上に出る重い扉を開けた。
太陽が真上にあるこの時間、日差しが強い。
「あっちぃ」
上着を脱ぎぐるっと山田の姿を探す。
春の風は屋上に来ると少々強く感じるが清々しくて気持ちいい。
その時どこからか、ビルの屋上なのに桜の花びらがひとつ、舞っているのが見えた。
そしてその目の先に、桜色の頬をした山田が
「櫻井さん、ここです」
手を振っていた。
何となく健気な感じがして、笑みが零れた。
つづく
お話の中の
『サイドの髪を右耳にかけながら』
はウルトラZEROのCM、帰ってきた御前様編←違う
の雅紀くんがモデルです♡