監督とコーチは
ホイッスルが鳴った後、無防備になったQBに背後から襲いかかる
そんなプレーの指示はしていない。
改善されるべきは、あの反則プレーにいたった指導法と、不足していたコミュニケーションだ。


前回に続き、いや前回よりもっと、
監督やコーチに恐ろしい司令を出されたと思ってしまっているDLくんと
落ち込んではいても、そこまで追い込まれて思い詰めているとは気づいてあげられなかったコーチの
すれ違い。

(3) 「やらなきゃ意味ないよ。」「できませんでしたじゃ、済まされないからな。」
(毎度の小見出し)
5 月 6 日(日・試合当日)、A選手は悩みつつも覚悟を決めて、試合会場に向かった。しかし、ロッカールームでキャプテンから発表されたスタートメンバーの中にA選手の名前はなかった。日大のディフェンス・コーディネーター(守備の全体統括コーチ)のC氏は、ここ数日、A選手が練習から外されていたことを知っていたので、スタートメンバーにA選手の名を記載しなかった。丸刈りにもしてきたのにと思い、防具をつけてロッカールームから練習に出ていくとき、A選手がDコーチに「試合に出してください。」とお願いすると、「監督に言いに行け。」と言われた。A選手は、ここで相手 QB を潰すと言わないと本当にレギュラーから外されてしまうのだと改めて思った。

試合前のポジション練習のときにDコーチから、「いま監督に言って来い。」と言われたので、A選手はB監督に直接、「QB 潰すんで出してください。」とお願いした。B監督の返事は、「やらなきゃ意味ないよ。」というものだった。
もうすぐ試合が始まるというとき、お互い距離は3〜5メートルでの会話だ。
静かなところや耳元での会話ではない。
「遠くから来たのは覚えている。何を言っているのかわからなかった」(内田監督)
だけど、春は指定席がない(スタメンを固定していない)ので、(試合に出たいと)ズカズカ来たら出したいと思っている監督のところにズカズカ来た。
監督は、来たから出してやろうと思った。
「やらなきゃ意味ないよ」と言ってないと監督は会見で答えた。
静かでないところで耳元でもなく、あのボソボソした口調の監督の返事をDLくんはハッキリと聞き取れたのだろうか。
“1プレー目からQBを潰せ”が監督からコーチに下りてきた指示だと思っていたDLくんには、監督は全てわかっていると思っていただろう。
実際は、思い切ったプレーをさせたいコーチの“作った”指示だった。
表面上の会話はすれ違い続ける。

それをDコーチに伝えると、「わかった。おまえ試合出ろよ。」と言ってくれた。
「(緊張する)監督のところに行くのが大事だと思っていた。
どんな会話をしたと(宮川くんが言うたかは)は覚えていない」(井上コーチ)
試合ではDLくんは思い切ったプレーをすると思ったコーチと、悪の司令を遂行しなくてはならないと思ったDLくんの会話が進んでいく。
このときA選手は、前日に先輩から聞いたままのこと(=「1 プレー目からアラインどこでもいいからリードもしないで QB に突っ込め。」)をするのはまだ半信半疑だったので、「リードしないで突っこみますけど、それでいいんですね?」と確認してみた。すると、Dコーチから「それで行け。思いっきり行ってこい。」と言われた。
「プレーが縮こまらないように(リードはしなくていいと)言った」(井上コーチ)
その後、試合前に両チームがサイドラインに整列しているときに、DコーチはA選手のところへやって来て、こう耳打ちした。「できませんでしたじゃ、済まされないからな。」
「試合が終わって『何もできませんでした』じゃアカンぞ、と言った。
思い切りタックルしてほしかった。
課題として、いつもと違うプレーをしてほしかった」(井上コーチ)


ヤクザ映画のセリフのような小見出しのうち、
ひとつは本当に言われたかわからないもの、
もうひとつは意図も汲み取り方もかけ離れたものだった。

監督とコーチが嘘をついているとするよりも、乖離と考えるほうが、どの会話も自然やねんけどな〜。
どっちも本当のことを言うていて、思っていたことが全然違った。
そんなふうに思えてきませんか?