うろうろしながら怪奇里紗さんのぬっぺっぽうもかってしまう。べとべとさんもぬっぺっぽうも昔からすきだが、うろうろするタイプの妖怪がすきなんだとおもう。果てがなく、希望も絶望もなく、意志もなく、しあわせとふしあわせの彼岸にいて、きがつけばいつもちがう野原をあるいている。そんな妖怪。
じぶんの心臓にふれながら、決意をもって、ひとに話しかけたことがある。でも、重く話しかけるかんじになるといやなので、かるいふうに話しかけたとおもう。あんただれ? とかいわれたら、立ち直れなかっただろうから。かるいふうに、でも心臓にタッチしながら、そのときわたしは話しかけた。この日このときのこのわたしの心臓ってこんなかんじかあ、と感心しながら。てでじかにさわりながら。しなないようにわたしの全部ががんばりながら。
こないだ席をふっと立って、じぶんは、征夷大将軍みたいにあのてこのてで手紙をおくりたいひとがいます、といったひとがいって、わたしはなぜかふっとほむらさんの「このごろあなたのゆめばかりみる」という歌を思い出した。そういうことあるよな、とおもった。そういうことはあります、と思わず席を立ちそうになった。2022年なのにいまだに「げんき?」という未来にも過去にもかんしんのない、今のわたしへのてがみがくる。この星のふるいことばでわたしも返事する。「げんきだよ。あんまりげんきじゃないけれど。でもうれしいよ。とても」


いつまでも眠る冬すみれひらく日/笠井亞子「いつまでも」『はがきハイク』23号、2022年1月