「順番にさはつてこれは檸檬の木/宮本佳世乃」『三〇一号室』。図書館にレベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』があっていいタイトルだなあと思った。佳世乃俳句も〈私たちのやったこと〉の質感に近い。私は私たちがやったことを忘れない。順番にさわった。これはと私は口にもした。わすれなかった
「十月のひかりの橋を渡りけり/宮本佳世乃」。わたしたちはわすれないんじゃないか。大事なことや大きなことじゃなくて、あなたとやったことを。したことを。ひかりの橋をわたったことを。鍵をいつかわたしたことを。あなた、とあなたの前で声にして。「ざぶざぶと芒掻き分けあなた鍵」
「さやうならそしてさよなら葛の花/宮本佳世乃」。よく思い出す句だが『三〇一号室』にも挨拶の印象的な句がある。「二階建てバスの二階にゐるおはやう」。さやうならさよなら、二階建てバスの二階、繰り返される時空の中で挨拶を通してひとが別れたり出会ったりする。いつも春に私たちがやったこと。