「前に進む、これを進むと呼ぶ、前と呼ぶ」ベケット『名づけられないもの』。ベケットはモノの底のようなところに帰ってゆく。ベケットと現代川柳は似ている。「「けれども」がぼうぼうぼうと建っている/佐藤みさ子」。もうそれしかないじゃないか、という世界の涯てのような場所。最後の手前。
私はバートルビーもそんな涯てで生きてたんじゃないかと思う。何をきいても「できればやりたくないのですが」としか言わない彼。「なんで?」「やりたくないのです」。ただ「ここで何をしてる?」と聞いたときだけ「手すりに腰掛けています」と萌えるようなことを言った。世界の果てにある手すり。