三島由紀夫『仮面の告白』が示すのは伝統的な男色ではない。キリスト教的な記号に囲まれて「私」に自覚されるのは、まちがいなくホモ・セクシャルだ。
日本的な男色文化を西洋的なホモ・セクシャルにパラダイムチェンジしたのが『仮面の告白』だったのである。
その意味において、『仮面の告白』には近代文学から現代文学への鮮やかな転回の軌跡が示されている。

石原千秋「古典としての現代文学」『一冊の本』