渋谷知美『日本の童 貞』は、「童 貞」を表象する19世紀末から現代にかけての言説を社会学的に調査・分析し、「童 貞に興味を持つ社会」が何たるかを考察した著作だが、渋谷氏はその興味深い考察をおこなう過程で、ソンタグを引用している。
結核や癌の患者にまつわる性格類型が「隠喩」として現在もまかり通っていることをソンタグが検証したように、「童 貞」にもまた「真面目で消極的」などの「隠喩」としての性格類型がつきまとう、と渋谷氏は分析する。
渋谷氏の批評のスタンスは、「童 貞」が「隠喩」化され差別される社会の本質を見極めること、性を特権化することで特定の言説が力をもたないようにオルタナティヴな性への干渉を提示していくことにある。
「性から特権性が剥奪され、誰もが童 貞に無関心になり、童 貞を問題化する社会を問題化する本書が用ずみになること」を願うと渋谷氏は述べている。

    安藤恭子「書評 押野武志『童 貞としての宮沢賢治』」『日本文学』2004・4