めちゃ苦茶のこと吐鳴(どな)り散らして、
眠りこけた。
ふと眼をさますと、部屋は、まっくら。
頭をもたげると枕もとに、
真白い角封筒が一通きちんと置かれてあった。
なぜかしら、どきッとした。
光るほどに純白の封筒である。
キチンと置かれていた。
手を伸ばして、拾いとろうとすると、
むなしく畳をひっ掻いた。はッと思った。
月かげなのだ。
その魔窟の部屋のカアテンのすきまから、
月光がしのびこんで、私の枕もとに
真四角の月かげを落していたのだ。
凝然(ぎょうぜん)とした。
私は、月から手紙をもらった。言いしれぬ恐怖であった。
いたたまらず、がばと跳ね起き、
カアテンひらいて窓を押し開け、月を見たのである。
月は、他人の顔をしていた。
何か言いかけようとして、
私は、はっと息をのんでしまった。
月は、それでも、知らんふりである。
酷冷、厳徹、どだい、
人間なんて問題にしていない。けたがちがう。
私は醜く立ちつくし、苦笑でもなかった、
含羞(がんしゅう)でもなかった、
そんな生やさしいものではなかった。唸った。
そのまま小さい、きりぎりすに成りたかった。
太宰治「懶惰の歌留多」