家族の標本 (角川文庫)
柳美里にとって「家族」という似非共同体ほどイタイものはなかったのだろう。作家とは文章をつむぐことでみずからのアイデンティティを編成=変成していくひとのことだ、だから彼女も家族を蒐集し、家族を編みあげることで彼女自身のあらたな作家主体へと切断=生成していこうとしたに違いない。成否はともかくとして
読了日:07月14日 著者:柳 美里
岩波講座文学 (1)
1巻はテクスト論特集。右の論者も左の論者もあわせてちゃんとコーディネイトしてるところはえらい。テクスト分析には大きくわけて2つの方法がある。テキストを論理的に精読していく泥臭くて堅実なテキスト分析。テストパイロットのように文学理論を用いながらテキストの意味を反転しアクロバティックな読みを展開するテクスト論。テキスト分析とテクスト論のどちらをあなたは選ぶだろうか。
読了日:07月14日 著者:小森 陽一
夜這いの民俗学
読了日:07月14日 著者:赤松 啓介
オイディプス王 (岩波文庫)
あえてエディコンのフロイトではなくラカンを意識してよんでみよう。オイディプスは他者のことばに耳を傾けたことによって、主体として象徴界に参入することができた。できたもののしまいには眼を失うこととなった。ひとはシステムによびかけられることで主体化できるけれども、うらがえって自分自身が見ているものを失うことにもなる。エディプスコンプレックスは主体化できないことへのおそれが根っこにあるのだが、現代の地平からいえばむしろ主体化されることの恐怖の方が大きかったりもする
読了日:07月14日 著者:ソポクレス
桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)
「亡霊としての記憶」というチェーホフ的主題がいかんなく発揮。愛すべきはつんでれヴィラン、ロパーヒン。つんでれキャラというのはその性質上、「時間=歴史」を抱え込んでいる。彼がでれっとするのはいつも過去を想起するとき。奥方への幼少期の愛情にでれっとしながらも、彼は階層性からついぞ脱却できなかった父親という審級とも戦っている。つんでれとは、時間=歴史を背負ったドラマ(葛藤)なのだ
読了日:07月14日 著者:チェーホフ
ワーニャ伯父さん,三人姉妹 (光文社古典新訳文庫 Aチ 2-1)
チェーホフ劇のコンセプト「それでも人は生きていかなければ!」がこれほどビビッドに打ち出されているものはない。ソーニャもエレーナもアーストロフも「つんでれ」なのだが、つんでれというのは作劇において葛藤(ドラマ)をもたらす効果的な手法である。エンターテイメントのカタルシスとは「つん」から「でれ」への移行であるともいえるのだ。ダースベイダーを想い起してほしい。つん・でれは実は、キャラに歴史=時間性を付与する古典的内面のありかたなんである
読了日:07月14日 著者:チェーホフ
ヘンリー四世 第一部 シェイクスピア全集 〔15〕 白水Uブックス
われらが愛する道化騎士ジャック・フォルスタッフ。おそらくは文学史上最強にして最愛の悪漢。道化でありながらも道化を殉ずるあまりに突き破っていくだけのパワーがある。そうなんだ、シェイクスピアは大英帝国が植民地政策で英文学として位置づけるまでハイブラウな文学ではなかった。テレビのように卑俗だった。その卑属のパワーの結晶はでっぷりとした酔漢となった。坪内逍遥のヘンリー四世の挿絵をみてくれ。ものすっごいでぶでかっこいいんだ。
読了日:07月14日 著者:ウィリアム・シェイクスピア,小田島 雄志
めぞん一刻 1 新装版 (ビッグコミックス)
高橋による漱石『こころ』論。先生は奥さんに対してこういうべきだった。「Kごと、あなたをもらいうけますよ」
読了日:07月14日 著者:高橋 留美子
映画の教科書―どのように映画を読むか
映画を読み解く基本的な武器はこれでばっちり手に入る。と思ったら、カルスタもポスコロもジェンダー論もどかっと抜けていた。またベススライムを倒す日々かぁ。
読了日:07月14日 著者:ジェイムズ・モナコ
夢小説・闇への逃走 他一篇 (岩波文庫)
ひとは死の直前に全生涯を回想するというが、その回想の終わる直前にもまた全回想を回想するのであり。そしてその回想の最後にも、という死に際の無限循環を数学的公式でとらえた小説。で、この小説を万葉集で読み解く発表を大学でやったんだが、さすがに場内がざわついていた。100年、はやかったんだろう
読了日:07月14日 著者:シュニッツラー
まことちゃん (1) (少年サンデーコミックス・セレクト)
上品な親戚の家に隠しておいてあって、隠し場所を知っていたのでよく親戚の家にいっては隠れて読んでいた。なんだか隠れすぎて入り組んだ状況になってしまったがともかくも隠されようが隠れようがおもしろいマンガだということだ。まことちゃんのお父さんがうちの父親によく似ていた
読了日:07月14日 著者:楳図 かずお
アドルフに告ぐ 1 新装版 (1) (文春文庫 て 9-1)
高校に入ってはじめて隣の席になったやつがおもしろいから読めといって貸してくれた。以後、1年間、わたしも彼もクラスになじめず、このマンガのような事態になってしまったことは皮肉であった。あったって
読了日:07月14日 著者:手塚 治虫
江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)
戦争という規律訓練によって身体はこれまでになく四角四面の律儀なモノとなった。その杓子定規な身体を人間椅子にあてこんだり、芋虫として表象したり、鏡のなかで丸くなったり、屋根裏で腹這いにさせたりすることで、いびつな身体論的反抗をしたのが乱歩のおもしろさ。バラバラ死体は、規則正しい身体への大いなる挑発
読了日:07月14日 著者:江戸川 乱歩
斜陽 (角川文庫クラシックス)
母を喰い殺そうとわきあがる蛇=無意識、他者の言葉と遭遇することでずらされゆくアイデンティティ、「いい子」でいながらも手にいれることのかなわなかった愛。和子はそれらを語ることによって新しい革命を起こそうとした。語りは、自分自身の変容に接続する。人間失格もそうだが、太宰テクストはただ単に「他者の言葉におびえる」といったことが本丸なのではなくて、「他者化していく自分自身の言葉の驚怖」が焦点となっている。そしてその点において、自分の暗さをただ単に述懐する有象無象の小説とは一線を画している。
読了日:07月14日 著者:太宰 治
日本古典文学全集〈8〉竹取物語・伊勢物語・大和物語・平中物語 (1972年)
読了日:07月14日 著者:
ハイデガー (FOR BEGINNERSシリーズ)
哲学の概説書はわかりやすさをうたうほどに、わかにくかったりする。一冊読んでわかってしまうような哲学書なんてまちがっている。哲学の本質は、わかりにくさ、だからだ。わかりにくいから、不安になる。不安になるから自己の哲学的存在について考え直そうとする。そうして、少しずつおのれの哲学的実存にきづいていく。わかりやすいものは哲学ではなく、「お話」という。お話の国に、ハイデガーはいない。
読了日:07月14日 著者:ジェフ コリンズ
文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)
本書は、いまちまたで流行のセカイ系の批判である。ひとが短絡的におのれのセカイを世界と直結することがいかに虚しく愚直なことであるかを舌鋒するどく穿っている。京極の本は、ミステリではなく、基本的には世界を相対的にみている書痴(ビブリオマニア)による、絶対的なセカイしかみえなくなった書痴批判の物語ととらえるとけっこうわかりやすくなってくる
読了日:07月14日 著者:京極 夏彦
カーテン (クリスティー文庫)
犯罪者という主体とは何であるか、そもそもその犯罪者のアイデンティティを同定する探偵の主体とはどう保証されているのかという探偵批判。わたしは法だ、というポアロのあり方はあまりに傲慢で勇み足だ。ホームズもそうだが、いかに近代的な知識が「法」を凌辱し我がものにしようと正統化してきたかの縮図にみえなくもない。
読了日:07月14日 著者:アガサ・クリスティー
三四郎 (岩波文庫)
近代文学における、おぞましき他者として立ちはだかる、言語ゲームのできないキッツイ女シリーズ第二弾。もちろん、第一弾は四迷の「浮雲」。いえ、真理。
読了日:07月14日 著者:夏目 漱石
ポアロ登場 (クリスティ文庫)
ヘイスティングスがポアロに対してコンプレックス、ひいては愛憎をもっていることがわかってくる。ドラマではすてきな友愛関係をもっていたが、こちらでは殺しそうないきおいだ。実際、うんざりしていた作者の手によって「カーテン」以前にポアロは殺されそうになっているが。
読了日:07月14日 著者:アガサ・クリスティー
人類最古の哲学―カイエ・ソバージュ〈1〉 (講談社選書メチエ)
研究者はたいてい、実のないおもしろい研究をするひとと、実のあるつまらない研究をするひとの二つに大別されている。前者は思想家、後者は学者とよばれる。中沢新一は思想家とよばれている。本人は、とても、うれしそうだ。
読了日:07月14日 著者:中沢 新一
イッセー尾形の遊泳生活
イッセーが苦労していた時代を描いたエッセー集。イッセーのエッセーだからといって、別に洒落をいっているわけではない。彼は本当に苦労している。でもその苦労のなかで少し視線をずらしながら人とは違うことを演じてきた。人にうけいれられながらも人と違う道をゆくのはこの視線のわずかなずらし方の美学が必要だ。高校の同級生に「ピカソくん」という人がいたが、彼は視線を見失ってしまっていた。いまいちど、妥当性と意外性の幸福な融合というお笑いの構成要素を思い起こそう。意外にも学問研究の構成要素もまったくそれと同じなのだが
読了日:07月14日 著者:イッセー尾形
立原道造/津村信夫 (新学社近代浪漫派文庫)
読了日:07月14日 著者:立原 道造,津村 信夫
語りつごうアジア・太平洋戦争 (7)
ラバウルとかブーゲンビル島とかガダルカナル島などのアジア太平洋戦争ルートの地図を浪人のときに克明にノートに描きうつしたんだけど一度もくその役にも立たなかった。見直しさえもしなかった。8年たっていまはじめてみた。そしてはじめて地図を書いたことをいまここに書いた。いま、くしゃくしゃに丸めた。いま、シュートして捨てた。いま、はずれて、おちた。
読了日:07月14日 著者:和歌森 太郎