哲学的根拠の提示

キリスト教や儒教・仏教・イスラム教などの従来の価値観は、紀元前6世紀ごろから紀元7世紀にかけて現れた。当時の人々は君主の命令を無条件に受け入れなければならなかった。生きるためにはその道しかなかった。それに当時の人々には理論的に批判する能力はほとんどなかったので、権威の前に無条件に従順するのは当然であった。したがって、キリスト教や儒教・仏教・イスラム教の教えに対しても人々は無条件に従うという社会であった。だからその時代の価値観を、現代の合理的・論理的な思考方式を持った人々にそのまま適用することには無理がある。そこで現代の知識人たちが受け入れることのできる合理的な説明方式でもって、それらの価値観を現代人に伝える必要がある。それでは、現代の人々に受け入れられる方式とはいかなるものか。それは自然科学的な方法である。倫理的徳目であっても、それが科学的な法則によって裏づけられたら、その徳目は現代の人たちに容易に受け入れられるのである。

自然を研究してそこから価値観や人生観を発見するということは、古代ギリシアや東洋でも行われてきた。朱子は、自然法則はそのまま倫理法則になると言って、自然法則と倫理法則の対応性を主張した。現代ではマルクスが自然法則を間違って捉えているとはいえ、やはり自然法則と社会法則(社会生活の規範)の同一性を強調して、自然も社会も弁証法に従って発展していると主張した。

故に新しい価値観を立てるには、自然や宇宙に作用している法則を見いだして、そこから価値観を導き出すという方法を用いることが必要である。そして宇宙を貫いている法則すなわち天道が、人倫道徳の基準となることを明らかにするのである。これが哲学的根拠の提示である。統一思想は、すべての存在は性相と形状の両側面を統一的に備えていると主張している。したがって、ここに性相面の法則である倫理法則と形状面の法則である自然法則には対応関係があるという結論が導かれる。ここで重要なことは如何にして自然を正しく理解するかである。マルクス主義弁証法は対立物の闘争によって自然は発展していると誤って把握した。この把握によって立てられた思想は、階級闘争という思想を生み出した。統一思想から見れば、宇宙(自然)に作用している根本法則は弁証法ではなく授受法(授受作用の法則)である。そして授受法には次のような特徴がある。相対性・目的性と中心性・調和性・秩序性と位置性・個別性と関係性・自己同一性と発展性・円環運動性などである。