刑事さんの頬や唇を指先で撫でていると、ふいにあたしの手を掴んで呟いた。
『あんた、わしのことなんぞなんも思ってないやろ』
『好きな男でもいるんとちゃうか』
・・・・。
なにを言ってるんだかな。コイツ。
まぁ、なんとも思っていないのは当たっているが。
で、今さら男なんかに興味はない。
そんな余力も体力も性欲さえもない。
若い頃にヤりまくった副作用だろうか。
『あなたのことを考えていたよ』
それは本当だ。
数年前に消えた某県警の警部さんのように、、、途中のコンビニで1万5千円を強盗して逃亡したひとね。
組織から、警察から、なにかから逃げて、最後は行方不明のまま。
今頃、関東の山林でクマに噛みちぎられたか、それとも、木に首を吊っただろうか。
たった1万5千円のために、と、思うだろうが、あのひとは、そこにじぶんの痕跡を残したのだ。
生きてきた痕跡だ。
警察官としてここまで生きてきた証。
それなのに、、じぶんは道を踏み外した。。
世の中に、そんなに強いにんげんばかりはいない。
だいたいは、道を踏みはずさないギリギリのところを耐えているだけ、、。
ホントはじぶんを見つけてほしかったのだろ。
死んだあとに。
腐敗する前に。
あたしは、あなたのことを考えていたよ。
あなたも消えないでほしい。
死なないでほしい。
組織に消されないでほしい。
刑事さんは、あたしの手を頬に当てながら目を閉じた。
やさしい人が言いました
いま 天に星 地には花 君に愛を・・・。