実家に帰っても、丸亀は僕の故郷ではないので、友人もいないし、楽しいことは特にない。
母の相手も楽ではないし。
しかし、唯一、楽しみなことがある。
それは「料理」だ。
母は料理が得意。
小さいときから、おいしいものを食べさせてくれた。
一方、妻は料理が苦手。
苦手というか全然しない。
結婚前に「私、料理苦手だから」と聞いていた。
でも結婚したら、料理ぐらいするだろう。
・・・と思ったのが大きな誤り。
本当に一切料理をしなかった。
ほとんど外食かほかほか弁当だった。
でも子供ができたら、料理はするだろう。
子供に栄養のあるものを食べさせたいという母性が働くだろう。
・・・と思ったのが大きな誤り。
ぜんぜん変わらなかった。
やっぱり弁当を買ってきていた。
子供は高2と中1になるが、
昨日の夕食はカップ麺。その前の日はメロンパン。その前の日はカステラ…。
信じられないかも知れないが、そんなもんばっかり食べている。
しかし、2人とも極めて元気で、病気をしない。
娘も息子も、小学校の卒業のときに「六ヵ年無欠席児童表彰」をもらった。
うーん。病気でもしてくれたら妻も考えるかもしれないのに・・・。
僕は毎晩、自分でスーパーのお惣菜を買って帰ってきて、酒を飲みながら食べている。
だから無性に、
「カレーが食べたい」
「ハンバーグが食べたい」
「とんかつが食べたい」
となる。
もちろん外食では食べてますよ。
けど、家で食べるカレー、ハンバーグ、とんかつは、なんか違うじゃないですか。
「家庭の味」というか・・・。
前置きが長くなったが、
実家に帰って、「カレー作って」「ハンバーグ作って」「とんかつ作って」と言うと、母が喜んで作ってくれる。
だからこれが実家に帰る唯一の楽しみ。
しかし・・・
母も認知症になり、昔ほど料理をしなくなったようで、
「カレー作って」と言っても、「どうやってやるんやったかな?」という感じに・・・。
「カレーぐらいできるやろ」と言っても、
出来上がったのが、水分が多くてでしゃぶしゃぶに仕上がってたり、
逆に、水分が飛んでドロドロのになったり・・・
あのときの「おふくろの味」が再現できなくなってきた。
悲しい。
これはホントに悲しい。
このままだと僕は「家庭の味」を生涯食べられなくなってしまう・・・。
今回の依頼は「ハンバーグ」。
母のハンバーグは特徴があり、外がカリカリで中がふわふわのタイプ。
一般的なものとは少し違うのかもしれないが、
これが僕の「おふくろの味」なのだ。それがおいしいのだ。
しかし母は「ハンバーグってどうやって作るんやったかな?」と言っている。
いや、僕に聞かれても・・・。
一般的なのを作られてもアレだし・・・。
そこで母は、ヘルパーさんに聞いていた。
ヘルパーさんは親切に、「玉ねぎをみじん切りにして、ミンチとパン粉に卵に塩こしょうをして、混ぜて・・・」と
説明していた。
そのときヘルパーさんが「玉ねぎは一度炒めておいた方がいいですね」と言った。
これが混乱のもとだった。
母は通常、ハンバーグを作るときに玉ねぎを炒めないようだ。
いつもと違うことを教えられたのだ。
夕方になり、料理開始。
母は不安そうに作り始めた。
そこで「パン粉と卵が無い」ことが判明。
僕は急いで近所に買いに行くことに。
帰ってくると・・・
あれ?
なぜ・・・香ばしいにおいがするんだ?
玉ねぎを炒めただけのにおいとは違うぞ・・・。
肉を焼いているときのにおいだぞ。
いやいや、パン粉も卵もないのに、まだハンバーグを焼くはずがないぞ。
そーっと台所へ行くと・・・
そこには、フライパンの中でミンチを炒めている様子が・・・
わーーー!
ちがーーーう!
ちがーーーう!
お母さん、それはちがーーーう!
そう叫ぶと、母は必死で「さっきヘルパーさんがこうせいって言ってたやん」と言い訳をしていたが、その場にいた僕は、ゼッタイそんなことを言っていなかったのを知っている。
そうか・・・メンチを炒めたらいけないこともわからなくなったのか。
そんなに判断力がなくなるものなのか。
仕方ない。
もうミンチを買いに行く時間はない。
その炒めたミンチと、買ってきたパン粉と卵で混ぜて作った。
炒めたてのミンチは熱くて、アツアツ・・・と言いながら作っていたが、
見た目は問題なく完了。
僕はそれを持って帰って、新幹線でお酒を飲みながら食べました。
いつもの「外がカリカリで中がふわふわのタイプ」とはちょっと違って、少し中が堅かったかな。
それにちょっと形が悪かったけど、味には大きな問題はなく、おいしかったです。
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