僕のおじさん。母の義理の兄が急遽亡くなり、母といっしょに葬儀に参列した。
母は正直、義兄さんの葬儀という意識がない。
葬儀ということは、わかってはいるのだろうが、
いっぱい人がいるので、大はしゃぎだ。
知っている顔を見つけては、主に以下の2つの話をする。
「私、居酒屋やってたんやけど、飲酒運転の取締りが厳しくなってから、パタっと客が来なくなって、店を閉めたんですわ…」
「息子がひとりおってよかったわ。息子が小さいときに、もう一人欲しいって言われたんですけど、流産してねぇ…」
これを「なんとかのひとつ覚え」のように繰り返す。
親戚にこの話をしても、親戚なのでみんな知っている。
でも認知症というのも知っているので、みんな「うんうん」と聞いてくれる。
…が、
2回も3回も同じ話をされるとさすがに限界を感じ、
僕の方を見て助けを求めてくる…。
「もうお母さん、それさっき言ったやん。ハハハ」
と僕が必死でフォローすると、
母は、
「ええやん。何回言うても。せっかく会ったのに。ねぇ。」
…と親戚の顔を見ながら言う。
親戚は…微妙な顔。
それを何回も繰り返し、そのたびに僕が
「もうお母さん。同じ話ばっかりしたらアカンやん。」
というのだが、母は
「何言うてるの!みんな喜んで聞いてくれてるわ!」と。
なんてハッピーなんだ…
僕の方がこんなハッピーな性格になりたいよ。
こんな性格になれれば幸せだろうな。
世間のなんにも気にならないだから。
僕は気にするタイプだから、もうドキドキだよ。
待てよ。
認知症ってもしかしたら幸せなのかも。
だって気を使うのは周りで、自分はぜんぜん気にしないんだから…。
お坊さんがお経を読んでいるときも、
「なんみょーほーれんげーきょー」
と一緒に唱え始め、
しかしずっと覚えてるわけもなく途中でついていけなくなり、
「わたし、昔は全部言えたんやけどな。忘れたわ。ハハハ。」
と結構大きい声で言う。
…
もうたのむよ…
お願いだから退場して…
お願いだから砂漠でラクダに逃げられて…
葬儀が終わり火葬場へ。
僕も久しぶりに親戚と会うので、あちこちと話していると、
ん?
あれ?
母がいない!
探す。探す。探す。
あっ!いた!
「私、居酒屋やってたんやけど、飲酒運転の取締りが厳しくなってから、パタっと客が来なくなって、店閉めたんですわ…」
…と、全然別の葬式の家族に話している図。
ぎゃーーーー!!!
すみませんすみませんすみませんすみません
を繰り返し、母を必死で引き離す息子の図。
やっぱり…フォーマルな場に出席させるのは…どうなんでしょうか。
お願いだから図鑑に載ってないキノコ食べて…
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