夕暮れになると、町内の駄菓子屋に明かりがともる。
弟は友達と「うまい棒ロシアンルーレット」をやっていて、大当たりの“めんたい味”を引き当てて鼻を真っ赤にしていた。
主人公は遠くからそれを見て、(どうせ家に帰れば母のお好み焼きの匂いがする)と思いながら、とぼとぼ歩き出す。

家に戻ると、姉が居間でテレビを見ながらゲラゲラ笑っていた。
画面では芸人が全力で変顔をしている。姉は涙を流して笑いながら、
「アンタの顔も負けてないけどね」
と、余計な一言を放ってくる。

その時、犬のナナが小屋をガタガタ揺らしながら、鎖をかみちぎろうとしていた。
「また脱走?」と主人公がつぶやくと、父は新聞をめくりながら、
「まあ、ナナの交遊関係のほうが、うちの誰より広いからな」
と、妙に納得したような顔で言った。

台所からは香ばしい匂いがただよってきた。母がお好み焼きをひっくり返したはずが、フライ返しが生地の下に滑り込まず――ベチャッ。
「あーあ、また失敗」
母は苦笑いしながら、なぜかそのまま生焼けを皿に乗せてしまう。

テーブルに並んだお好み焼きは、丸いもの、三角のもの、なぜかハート型っぽいものまで混ざっていて、みんなが一斉に沈黙した。
ナナだけが小屋の中で「ワン!」と吠え、まるで「私が食ってやる!」とでも言っているかのようだった。