がんと生きる 言葉の処方箋
制作国:日本(2018)
上映時間:90分
監督:野澤和之
撮影監督:堂本昌宏
出演:樋野興夫、宗本義則 他
解説:がん患者の苦しみを言葉で癒す「言葉の処方箋」とも言われる「がん哲学外来」と、そこから発展して生まれた「がん哲学外来メディカル・カフェ」をテーマに撮り上げたドキュメンタリー。順天堂大学医学部の樋野興夫教授が、医学と哲学を結びつけて提唱した「がん哲学外来」。そして、そこから発展し、患者たちが対話して悩みを分かち合い、病と向き合う場として生まれた交流の場「メディカル・カフェ」。全国のカフェを回って講演する樋野教授や、それぞれにカフェを開設し、がんにかかっても明るく元気に生きる人々たちの姿を通して、がんとともに生きることへの勇気や人生の希望を見いだしていく。
評価:★★★★★
◆感想
全国で2ヶ所の映画館でしか公開されていないドキュメンタリー映画です。しかし、連日満席でようやっと観ることができました。私の観た会も満席で、観に来ていた方はやはりシニア層が多かったです。
しかし、この作品はシニアの方だけを対象にしているわけではありません。予告編にもあるように様々な年齢やバックグラウンドのがん患者の方が登場します。どんな人もがんの当事者あるいはその家族や友人に成りうるのだということが、特に説明は無くても観れば伝わる作りになっています。(ちなみに統計的には2人が1人がんになるとされているので、がんの当事者かその家族になる可能性は実際にほぼ100%だと言っていいでしょう。)そのため、登場する人ひとりひとりの想いを自分のことのように受け止め、考えさせられる作品になっています。
*以下ネタバレです。
◆ネタバレ
膵臓がんが再発した男性、メディカルカフェを運営する乳がんの女性、メディカルカフェを運営する消化器外科医、乳がんのシングルマザー、小児がんで入院した経験のある高校生などのインタビューや日常が描かれる。
◆感想(ネタバレあり)
予告編で樋野先生が“がん哲学外来というのは医療の隙間を埋めるということです”と仰っていますが、このセリフは私自身が医療従事者なので大変良くわかります。病院の仕事主軸はあくまで専門とする疾患や症状を治すことや軽減することに置かれてしまいがちで、その人自身がどう生きるかというところまでなかなか手が回りません。もちろん病院のスタッフだって患者さんの想いを聴き取り、それに寄り添う努力を怠っているわけではありません。しかし、慢性的な人手不足の中でなかなか一人一人の患者さんとじっくり話している時間が取れないのもまた事実です。そんな中で、想いを語りあい、人生を考える場があるというのは、病院ではまかない切れないことを補完してくれているように思いました。
心強いのはがん哲学外来が既に創始者の樋野先生の手を離れて様々なところで、がん哲学外来メディカル・カフェとして発展していっているということです。こうした集まりの存在がもっと認知されたらより多くの人の助けになるはずです。
印象に残ったのはエンドロールの後の樋野先生の外来の様子です。腫瘍が悪性だったらどうしようかと心配する女性に先生は一言「ほっとけ、ほっとけ、気にするな」と言うのです。病気を治すために医者のところに来た患者が、その病気について「ほっとけ」と言われてしまうことはまずないので、これはこの外来ならではのコメントなのだと思います。
私は個人的にこの外来の思想は、“自分の力でどうにかできることとそうでないことに見切りをつけること”、“自分の力でどうにかできることに一生懸命取り組むこと”“自分の力でどうにもできないことは諦めて受け入れること”なのではないかと思います。そして分かっていても難しいこれらのことを容易にする手助けとして、“他者に自分の気持ちを話す”という手段を用いているのだと感じました。そう考えると、この外来の思想はがんになるならないに関わらず「どう生きるか」ということに限りなく近いように感じます。序盤に出でくる勝海舟の“全てを尽くして、後はちょっとだけ心配して待てばいい。どうせなるようにしかならないから”という言葉は多くを物語っている気がします。
◆まとめ
・どんな人も当時者意識を持って観ることができる作品