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潜水服はモスラの夢を見る

主に映画の感想を語るブログです。

*本記事は2018年4月10日にyahooブログに投稿したものです。yahooブログ閉鎖に伴い、こちらに転載しました。

アイスと雨音

 

制作国:日本(2017)

監督:松井大悟

脚本:松井大悟

出演:森田想、田中怜子 他

 

あらすじ

あるイギリス戯曲が、日本で初めてとある小さな町で上演されることになる。オーディションでそのキャストに選出されて意気込む6人の少年少女たちだったが、公演は中止になってしまう。ショックに打ちひしがれる中、1人の少女が稽古しようとメンバーに持ち掛ける。その呼びかけに奮起し、大人たちに上演中止撤回を迫るが事態は好転しそうもない。どうしても舞台に立ちたい彼らは、本番予定だった日に劇場へ向かい……。(yahoo映画より)

 

評価:★★★☆☆

◆感想(ネタバレなし)
松井大悟監督の作品は『私たちのハァハァ』に続いて2本目の観賞でした。『私たちの~』でも感じたのですが、この監督は若い子たちの会話の演出が素晴らしいです。『私たちの~』での主演4人の女の子の会話や今作の6人の会話シーンは本当にナチュラルで実在感があって見事でした。

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今作は宣伝にもある通り74分ワンカットです。さらに普通の会話と劇中劇の会話がセリフ合わせの練習という体で交互に展開されるという変わった作りをしていて、そのセリフ合わせを観ていれば劇中劇がどういう話なのかも観客には分かるように出来ています。また、実際の役者さんの名前と役名と劇中劇の役名が一緒です。つまり、劇中の役者が劇中劇を演じるのと、実際の役者さんが劇中の役を(あたかも舞台であるかのようにワンカットで)演じるのとを二重に観ることになり、この構造が物語のラストで効いていたように思いました。

諸手を上げて絶賛とは言いませんが、他の映画ではなかなかない特別な体験ができるので、そのためだけでも観る価値はあるかと思います。

 

 

 

*ここからネタバレです

 

 


◆ネタバレ
…といってもほとんどyahoo映画のあらすじに書いてあることがそのままネタバレなのですが、舞台をあきらめきれない6人は、舞台をやる予定だった劇場に押しかけ、大人たちの妨害をかいくぐり、観客が誰もいないステージの上に立ちます。ここでお話としては終わりなのですが、ここで松井監督がカットをかけて、役者さん達の安堵や喜ぶ様子までがスクリーンに映ります。

 

◆感想(ネタバレ)

作中で舞台が中止になる理由はチケットが売れなかったからです。舞台のチケットが売れない理由は色々あるのだと思いますし、作中でも明言されませんが、やっぱり考えてしまうのは役者さんたちのネームバリューです。自分達の名前でお客さんを呼べるほどの知名度がまだない、というのは出演している実際の役者さんたちの実情と重なりますし、その上で役名と名前が一緒というのはとても意地悪な設定だと思います。だからこそこの作品を演じ切り、確かに自分たちの存在を示した役者さんの姿に感動があるのだと思います。この作品が「役」から「役者」に戻ったところまで映して終わるのは、明らかに作中の役ではなく、それを通り越して役者に観客が感情移入することを求める作品だったからでしょう。実際に冒頭のシーンで劇中の舞台の演出家が「お話はともかく皆さんが生きていることを伝える」みたいな主旨のセリフを言うところがあり、このセリフそのものがこの映画の在り方を表しています。そういった意味ではドキュメンタリーに近い映画のような気がします。

 

74分ワンカットの撮影は実際にカメラに映らないところも含めて入念に動きの打ち合わせが必要だったはずですし、スタッフ、キャストの苦労と努力は確かに伝わる作品です。特に主演でほとんど出ずっぱりだった森田想はホントによく頑張ったと思います。(ちょっと蒼井優に似ているな、と思いました。)

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ただ、物語そのものは正直あんまりおもしろくなかったです。というよりも、既に述べたようにこの作品は「役」ではなく「役者」に感情移入させる作品なので、物語そのものを深く語る気はそもそもあまりないのではないかと思います。出てくる役は皆、舞台の中止が納得いかないから劇場に無理矢理押しかける身勝手な人ばかりなので、正直誰にも感情移入できません。

 

この作品の評価はこの作品に、ひいては映画に何を求めるかということで変わってくるのではないかと思います。私は物語そのものがおもしろい作品を観たかったので評価は少し低めです。でも間違いなく一見の価値はある作品だと思います。